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「精神はアマ、技術はプロ」が、本当のプロだと思う |
-まずは、普段日本の伝統芸能になじみの薄いスタジオのお客様に、自己紹介をお願いします。 私は歌舞伎義太夫三味線の奏者と申しまして、今月は南座の顔見世に出ております。歌舞伎の中でも使う三味線が色々ありまして、長唄、清元、義太夫などがあります。長唄っていうのは細棹で、清元は中竿、義太夫は太棹なんですね。で、その義太夫の三味線を弾いています。芝居の中で色んな出し物がありますけれども、義太夫狂言というのがあるんですね。義太夫を使った狂言、物語です。そういう物語に出て、三味線を弾く職業です。
-舞台において義太夫三味線はどういう役割を担っているのですか? 義太夫の三味線というのは、ナレーションみたいなものなんですね。舞台の進行に携わっているんです。だから、義太夫狂言には必ずこの義太夫の三味線とその義太夫の太夫(謳い手)さんがいないと、舞台が進行していかないという状況なんです。 -通常の義太夫三味線の他にも、「創作浄瑠璃」なるものを主宰されているんですね。 浄瑠璃って、「敷居が高い」とか、「分かりにくい」っていうイメージがありますよね?きっかけがないとお芝居を見に行かないし、お値段も高い。一般の方にはなかなか見に来ていただいたりするのが難しいので、広く皆さんに聞いていただこうと思い始めました。古典だとどうしても分かりにくいので、昔話とか土地に伝わる民話を、浄瑠璃に直して作曲をして、広めている訳なんです。言葉も分かりやすいし、内容もご存知のものが多くあるので、子供達でも分かる、大人でも楽しめる。そういう形で、創作浄瑠璃なるものを作って皆さんに聞いていただいてます。 -伝統芸能の単語(例:浄瑠璃)って、我々にはそもそも何なの?と感じます... 多分、「浄瑠璃」とか「義太夫」とか「文楽」とか、聞いたことはあるけど、どっか似たようでどこがどう違うのかな?ってありますよね。まず、浄瑠璃なんですけど、これはお姫様の名前なんです。浄瑠璃姫と言うとても美しいお姫様がいたんですね。その浄瑠璃姫と牛若丸が恋をしたんですが、牛若丸は旅立ってしまったので悲恋物語として伝わったんですね。それが江戸時代にすごく流行ったんですよ。浄瑠璃姫物語を聞きにいこうって言ってたのがだんだん浄瑠璃を聞きにいこうとなったんです。 -なるほど、そうなんですね! その浄瑠璃姫の物語を唱ったり語ったりしている時に、バックで三味線を弾いていました。だから、バックで三味線を弾いて物語を語るものを、総称して浄瑠璃というようになったんです。全てが浄瑠璃なんですね、三味線で歌ったり語ったりするのが。そこからメロディアスなものは長唄とか小唄、端唄、俗曲に分かれて、それがちょっと語り物が入ってきますと常磐津、清元、地唄、荻江、そういうものになりました。 -では「義太夫」とは? それが今度は関西に渡ってきまして、節がだんだんややこしくなってきた。そういう上手く節を語る人が出てきたんですが、その人の名前を竹本義太夫と言います。竹本義太夫があまりにも上手く節回しを語るので、そこから義太夫節が完成したんですね。義太夫節というか浄瑠璃を語っているのを、今度は人形を付けてみようと思いまして、人形を浄瑠璃と合わしたものが人形浄瑠璃というんです。その人形浄瑠璃を何とか興行にしようとした興行主の名前を上村文楽軒といいます。その上村文楽軒の文楽をとって、文楽座というのができたんですね。今大阪でやってます人形浄瑠璃は、文楽っていうんですよね。そういう風に、浄瑠璃も、義太夫も、文楽も全て人の名前なんです。 -三味線という楽器ですが、太棹、中棹、細棹、三種類がおありだと。その中でも太棹をお使いなんですね。 そうですね。 -これは楽器的にはどのような違いがあるのでしょうか? 結局、棹(ネック)の太さですね。棹の太さによって音質が変わってくるので、区切っているのです。細いものはメロディアスなもの、中棹になると少し語りが入るもの、太棹になるとまるっきり語りが入って、重量感のある音が出るので情景描写とか心理描写を表すのに適した三味線です。もう1つ、太棹の中には皆さんご存知の津軽三味線、これも太棹に入ります。 |
-弦は3本ですが、調律や音域はどんな感じでしょうか?
結局、一の糸を基準に合わせます。一の糸っていうのは1番低い音なんですね、そして二の糸があって三の糸がある。一と三はオクターブ違うんですけど、その一の音を下げればどんどん下がるんですよ。そうすると1番低い音がどんどん下がる。逆に上げれば、調子はどんどん上がる、音階も上がる訳なんで、これは全然決まってないですね。普段は1の音をG#に合わせ、G#を基本にして調子をとっていきます。 -その日の演目の内容等で、変わるんですね。 はい、そうです。 -他の楽器と一緒に演奏をすることもあるのでしょうか。 三味線は単音なんですよ。音が繋がってないので、洋楽器とコラボする時には難しいものがあるんですね。三味線の特徴を生かした弾き方の方が、やはり三味線の色が出るので。洋楽というメロディは、やはり洋楽器に適しているんですよ。どんなに邦楽器が頑張っても、洋楽器に勝てない。逆に、洋楽器の方が邦楽のメロディを弾いてもやはり邦楽器には勝てない。一緒ですよね。だから、コラボする時には自分の楽器の持っているいいモノを出してコラボします。 -津軽三味線の吉田兄弟さんや吾妻宏光さんらが出てきて、三味線と言う楽器の認知度は広がっていると思います。こういった現況はどのように捉えてらっしゃいますか? とてもいいことだと思います。私の場合は自分の楽器を広めるのではなくて、邦楽全般をたくさんの人に認知してもらいたいと思うので、どんどんやって欲しいですよね。若い方には津軽三味線のようなメロディアスなもの、リズム的なものが入りやすいと思うんですよね。 -普段邦楽になじみの少ないスタジオのお客様に、特にアピールしたい点はありますか? 僕達だけにいえることではなく洋楽器の方達にもいえることだと思うんですけど、「自分の音」を大事にして欲しいっていうのはありますね。誰が弾いても同じもの、ではなくて、その人が弾くからこの音が出る、とかね。その人独自のもの、ていうのは大事だと思いますね。最初は皆さんコピーから始めるんだと思うんですけど、それだけでなくて、自分達の色、カラーを強いものにして欲しいですね。 -野澤さんの考える、三味線の魅力、浄瑠璃の魅力とは?
浄瑠璃三味線の特徴と申しますと、1つ1つの音を大事にするんです。流れながら弾くのではなく、1つ1つの音に、どういう意味合いを持って撥を下ろすとか、左の指の持っていき方とか。心理描写とか情景描写を表すのに適しているんですけど、それを重要視してやっていきたいなと思ってるんですよね。 -我々から見ると、伝統芸能者であるのはもちろんですが、プロ・ミュージシャンという認識が強いです。プロを目指す若い方々にメッセージをお願いします。 「アマ」と「プロ」の違いとか、皆さんよく言われますが、僕は、ないと思うんですよね。僕としては、「技術はプロ、精神はアマ」でいてほしい。結局、プロになってしまうと、色んな面で充たされるます。そうすると、アマの時の気持ちが薄れてくるんですよね。ハングリーなものが無くなってくるんですよ。だからやっぱり「精神はアマ、技術はプロ」が、本当のプロだと思う。常に何かを作り出す、目指して行く、ていうのがないと、落ち着いてしまったらそこで終わってしまうと思うんですよね。それを、目指して欲しいですね。 -ありがとうございました! |
| プロフィール |
野澤松也 歌舞伎三味線方 舞台を務める傍ら、昔話や民話、土地に伝わる話を浄瑠璃風にアレンジして橘凛保が創りあげる作品に作曲し、弾き語りで伝えている。 『広島咲希望花カンナ』『友情泣赤鬼物語』などCD7枚を製作。難しいと思われている義太夫をもっと身近に楽しんでいただきたいと考えている。 そして慣れていただき、もっとたくさんの人に文楽や歌舞伎の義太夫の舞台を見に来てほしいと頑張っている。 |