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行政書士が教える。音楽やるなら知っておくべき著作権の基本
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行政書士が教える。音楽やるなら知っておくべき著作権の基本

「著作権」と聞いて、どのようなことを感じるでしょうか?

おそらく多くの方がこの言葉を聞いたことがあると思いますし、どのようなものかは何となく理解しているのですが、実際には詳しいところまでは知らないという方が多いのが実情ではないでしょうか。

今回は音楽に関する著作権について、知っておくべき基本的な事項を挙げてみたいと思います。

著作権といってもいろいろある

とても身近な権利でありながら、一般的には誰からも教わることがないため理解が不十分になりやすい権利である著作権。

特に、音楽を作る者、演奏する者にとっては自身が権利者となるため、とても重要なものです。

まず知っておきたいこととして、そもそも著作権とは1つの権利ではなく、複数の権利(それぞれの権利を「支分権」と言います)をまとめたものである、という点があります。

具体的には、大きく分けて財産権としての意味を持つ(狭義の)著作権、著作者人格権、著作隣接権、実演家人格権の4つがあり、さらにそれぞれの権利も細かい支分権から構成されています。

著作権の基本

そのため、例えば著作権侵害だというような場合にも、単に著作権という観点ではなく、複製権や公衆送信権といった具体的な支分権をもとに検証することになります。

自動的に与えられて長期間保護される

著作権は、特許権や商標権などと並ぶ「知的財産権」の1つですが、他の権利とは異なり、権利の発生に登録や申請といった手続きが一切不要(これを「無方式主義」と言います)で、後述する「著作物」が創作された時点で自動的にその作者(著作者)に与えられます。

また、早い者勝ちでもありません。

参考にしたり盗作したのではなく偶然に同じ歌詞や同じメロディーが作られた場合は、その両方に権利が生まれます。

著作権法により保護される期間は、いろいろ例外はありますが、この原稿執筆時点において原則的には、著作物の創作時点からはじまって著作者の死後50年間経過するまで、となります。

著作権の対象となるもの

著作権という権利は、どんなものにでも与えられるのではなく、著作物を創作したときに、それを創作した者に与えられるのですが、では著作物とは何でしょうか?

音楽で言えば何となく「歌詞」や「メロディー」が該当するのでは?と感じると思いますが、法律では著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(法第2条第1項第1号)と定められています。

さらに、法第10条において著作物とされるものが例示されていますが、その第1項第2項において「音楽の著作物」と明記されています。

つまり、音楽であれば、基本的には著作物である、と考えられます。

著作物ではないもの

このように音楽が著作物に該当することがはっきりと謳(うた)われていますので、「音楽を構成する要素である歌詞やメロディーはどんなものでも著作物だ!」と言いたくなりますが、ここでポイントとなるのは条文中にある「創作的に表現」という箇所です。

プロであってもアマチュアであっても、大人でも子どもでも、創作行為により生まれたものであれば創作的であるとされており、高度な、芸術的な創作物である必要はありません。

ただし、次のようなものは創作的に表現されたとはみなされず、著作物ではないと判断されます。

つまり、著作権法では保護されません。

1. 他人が創作したものをそのまま真似ただけのようなもの

いわゆるパクリや盗作であれば権利保護する必要はありません。

2. ありきたりの表現やアイデア

ありきたりの表現(例えば「女々しくてつらいよ」)や、単なるアイデア(例えば「自分の取扱説明書みたいな歌詞にする」)では創作的に表現したとは認められません。

よって、誰でも「自分の取扱説明書みたいな歌詞」を作ることはできます。

ただし、西野カナさんの「トリセツ」の歌詞は「アイデア」を越えた「表現」ですので、それをそのまま利用することはダメです。

ではなぜ上記のような場合は創作的ではないとされるのでしょうか?

著作権は著作物が創作されてから著作者の死後50年たつまでという、とても長い間保護される権利であり、その期間中は権利者が独占することになります。

よって、「女々しくてつらいよ」のような短い表現などを著作物だとして著作権を与えてしまうと、この日常会話でも出てきそうな一般的な表現が一人の者に独占され、他者が使えなくなってしまうという大きな弊害が生じてしまいます。

そのようなことがないように、創作的だとは認められない、つまり著作物として保護されない場合が存在します。

著作者と著作権者の違い

よく似た言葉に「著作者」と「著作権者」がありますが、これらの違いは何でしょうか?

言葉の定義としては、著作者とは著作物を創作した者であり、著作権者とは著作物に対する著作権を保有する者、ということになり、著作物が創作された時点では「著作者」と「著作権者」は同じ者です。

しかし、著作権は財産権であるとされていることから、契約などで他人に譲ることができますし、著作者の死後、相続によって著作者の子どもなどが権利を承継することもあります。

これにより、最初は著作者が持っていた著作権という権利が他人に渡りますので、著作権を有する者(=著作権者)は著作者とは別人になるわけです。

※著作者人格権、実演家人格権は譲渡できません(法第59条、101条の2) ところで、この著作者と著作権者の違いというのは、音楽の著作権を考える上ではとても重要なことです。

なぜなら、市販されているロックやポップスのCDに収録されている詩や曲は、一部の例外を除いて著作者と著作権者が異なるからです。

歌詞や曲は、アーティストや作家などが創作し著作者となりますが、著作権については多くの場合、直接または音楽出版社などに譲渡された後に日本音楽著作権協会JASRAC)などの著作権管理団体に譲渡(信託譲渡)されていますので、著作権者はJASRACなどとなるわけです。

著作者と著作権者の違い

このように、ポップスなどでは著作者と著作権者が異なることが一般的なのですが、「作詞や作曲をした者が著作権を持っている」と考えている方は少なくなく、これに関連した、著名音楽プロデューサーによる巨額詐欺事件も記憶に新しいところです。

音楽制作には多くの権利が関連してくる

著作権とは、狭義の著作権だけではなく他の権利もあるとお話しましたが、一般的な音楽制作においてはこれらのすべての権利が関係してくるため、音楽の著作権というのは実はちょっと複雑です。

そもそも、音楽の制作から提供までには、多くの創作的な行為が関わっています。

「作詞、作曲」から始まり、その曲を「編曲」し、「演奏したり歌ったり」したものを「レコーディングしてマスターテープ(原盤)を作る」ことで、CDプレスしたりネット配信するなどして流通させます。

このように、音楽の制作から流通までにはこれだけの行為が関わっており、著作権法ではそれぞれの行為を行った者に次のような権利を与えるようになっています。

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業界独自の慣習も注意

ところで、先ほどのリストにおいて「原盤制作者」が有する著作隣接権を通称「原盤権」と記しましたが、実は著作権法には原盤権という言葉は出てきません。

また、音楽業界では「出版権」という言葉がでてくることがありますが、著作権法で定められている出版権(書籍などを出版する権利。法第79条から88条まで)とは異なり、通常は著作権全般を指します。

このように、音楽業界では法律に規定のない、あるいは規定とは違う意味で使う言葉がありますので注意が必要です。

概要だけでも覚えておこう

ここまでで取り上げたことは著作権の基本中の基本で、まだ具体的な著作権の中身については触れていません。

特に音楽制作に関する著作権となると多数の権利が関係してきますので、まずはここまでの内容を知っておくだけでも十分役に立つのではないでしょうか。

ライタープロフィール

遠藤正樹

行政書士

遠藤正樹

行政書士。

ビーンズ行政書士事務所代表。

都内の音楽専門学校を卒業後、音楽制作会社所属のマニピュレーター兼雑用係として活動後、独立。

フリーランスの作曲・編曲家として主にゲーム系音楽の作編曲に携わりつつ、同時にウェブデザイナーとしても活動。

その後行政書士登録し、著作権だけでなく各種契約書の作成・リーガルチェックを中心に奮闘している毎日です。

著作権に関するネタを発信するブログ『著作権のネタ帳』も運営し、一人でも多くの人に身近な権利として意識してもらえるよう啓蒙活動を続けています。

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