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【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。東京を歌った曲編
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【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。東京を歌った曲編

「長崎は今日も雨だった」や「よこはま・たそがれ」。

ある特定の県や街、地域を読み入れた曲は意外と多いです。

ご当地ソング、ご当地演歌なる言葉もあり、カラオケでも知らない間にどこかの国名、地名を歌っていることもあるのではないでしょうか。

今回はアイドルの、その中でも特に東京を歌った曲を取り挙げて焦点を当てたく思います。

お手本神曲:Tokyoという片隅|モーニング娘。’16

作詞はつんく♂さんです

特定の街を歌う

東京は大勢の人の目標となる到達地点や出発地点となる、明暗でいう所の「明」の象徴となる場合があります。

「僕(私)もいつか東京へ行って一旗揚げてやる」は漫画やドラマでよく聞く台詞の一つです。

東京が世界の中心、自分の華やげる場所の隠喩(いんゆ)である場合もあるでしょう。

ただし、この曲「Tokyoという片隅」に流れる歌詞は、東京のやや「暗」の部分に踏み込んだものが多いです。

歌詞の

容赦ない現実達 儚い瞬間達

は誠に、東京に夢破れ田舎に帰る大勢の人たちの陰を含んでいるかのようです。

心の息継ぎさえできない場所、それが東京(のイメージ)です。

東京は広い意味で「世間」や「現実」をも意味するのでしょう。

愛する種類を一体全体 いくつ知ってるの?

ただ少しキュッとされたいだけ

冷たい街でけなげに生きること、脳内では寂しい恋に生きることへのリンクの一肢ともなり得ます。

「大都会vs個人」を「相対的な愛情vs個人の恋」と置き換えます。

この作られた対立、「抽象化(気持ち)vs具象化(東京)」の構造はどのような場合でもとても歌詞になり易いです。

語尾を工夫する

多彩な語尾は曲全体を硬くもやわらかくもします。

これは個人的な感想ですが、つんく♂さんは自分が歌いたい曲を書き、それを女の子が歌うスタイル、を持っているので歌詞の語尾が男っぽい作品が多いです。

夢見る時間を一体全体 いつでOFFにすんの?

アイドルのかわいさを出すなら「夢見る時間を一体全体 いつでOFFにするの?」でしょう。

また、

この世界のTokyoという片隅にゃ

も同じく本来なら「この世界のTokyoという片隅には」でしょう。

過酷な大都会を生き抜く少し強い女の子を演出するための武骨な語尾。

つんく♂楽曲には強気な子がたくさん登場します。

一読、歌詞としては不熟な表現とも思われる口語(の語尾)のちょっとした工夫、細工、つんく♂楽曲には見習うべき所が多いと思います。

ルビを使う熱量

ニューミュージック系の時代や思想をつづった深淵なる歌詞ならともかく、アイドルの楽曲の歌詞カードをまじまじと読み入る人は少ないのではないかと思います。

歌ってしまえば何も関係ない歌詞表示ですが、つんく♂楽曲にはたくさんのルビが使われています。

一例を挙げます。

こんな性格(ひと)なんだよ

住みやすい国(とこ)にしてよ

大好きなこの地球(ほし)の

この「Tokyoという片隅」にも3種類の「ヤツ」が登場します。

【我武者羅鹿しか生きれぬ連中(ヤツ)が居る】

【不器用にしか生きれぬ子(ヤツ)が居る】

【するりとかわして笑っている野郎(ヤツ)だって居る】

視覚的に歌詞を見れば、このルビが結構効果的に使われているのが分かります。

それは単なる文体の差なのではなく作家としての熱量の差だと思います。

譜割りの都合上、作詞家には「この意味を足し算した言葉を探したい」という場合が多々あります。

容易に共感されない言葉をルビで補足する、この熱はいつまでも忘れないでいたいものです。

お手本神曲:東京スキャンダル|predia

https://www.youtube.com/watch?v=6xK0oL35qgc

作詞はSatoru Kurihara(Jazzin’park)さんです。

東京と向き合う

東京には、大きな街特有の厳しさや、マスコミに昔から共有された、知らない者同士が狭い空間で生活する人間関係の苦しさをイメージする側面が多々あります。

地方から集まった人間同士が疑心暗鬼にお互いをけん制する、それらの行き過ぎが「東京の人は冷たい」幻想を生み出しているとも思います。

「一個人の思いvs大都会東京」の置き換えで作られた楽曲はたくさんあります。

「都会には負けない」「白けた都会に俺(私)は冷めない」の思いだと思います。三代も四代も前から東京に住んでいる本当の東京人にはピンとこない歌詞も、田舎から上京して来た人にとってはビンビン共感できる歌詞となります。

それは和歌山の人が→大阪へ上京、また鹿児島の人が福岡へ上京した場合も気持ちは同じです。

大都会は人が人をもみ、人を成長させてくれる場所の一つなのです。

その苦しみや葛藤、やるせなさが独りよがり以上の共感を呼ぶ歌詞になり易いのです。

ある種の気恥ずかしさを捨てれば東京を題材とした歌詞は幾らでも?書けると思います。

昼と夜の状況別に考察する

夢見る都会に 乱れてる キミに溺れてる

上の歌詞は東京の「冷たさ」の中で生まれ、そして散る恋愛模様のワンカットを切り取っているかのようです。

同掲載の動画を観てもらえれば分かるのですが、ふんだんに夜の匂いがするのもこのアイドルならではです。

同じ街を歌詞にするとしても、昼と夜では随分違った歌詞になります。

【吐息、、重ね合えば】

派手に熟れた果実 おもてなすは今夜のシティ

どこかセクシャルな恋愛は東京の夜にしっくりきます。

これも東京ならではのスタイリッシュな恋愛なのでしょう。

決して悪く言うつもりはありませんが「青森の夜」には、東京ほどタイリッシュな恋愛は連想しにくいです。

東京はその言葉の響きだけでモチーフになりうる懐の深さがあります。

また、短い歌詞の連続する箇所もあります。

曲調にもよりますが、ここでは恋愛の緊迫感をより盛り上げています。

東京スキャンダル☆フライデーナイト 誤魔化しきかない シーソーゲーム

このカタカナの軽さは意図した以上に響いています。

昼間のエネルギッシュさに加え、夜の妖艶な、危険な香り、東京は誰にとっても多義的な顔を見せる街です。

このグループには別曲「Tokyo Love Affair」もあります。

どこまでも東京を歌い、都会の最先端を走ろうという意気込みさえ感じます。

唇 ドラマティック 目と目ファンタスティック

語尾のティックで韻を踏む以上に形式的なこだわりがあります。

洋楽にも「憧れの街ニューヨーク」的なノリはたくさんあります。

大きな街を目指すことは夢をかなえることともリンクし、歌詞のモチーフになり易いのではないでしょうか。

歌詞は譜割りによって切り捨てた分だけ窮屈な表現とはなりますが、その心もとなくも突き離した分、聴く側に自由な解釈を与えられます。

大ヒットした曲ではありませんが、この「東京スキャンダル」は歌詞的にも好きな曲です。

ライタープロフィール

アイドル作詞家・俳人

瀧乃涙pin句

何のツテもないまま作詞を開始。

数年後、文化放送ラジオドラマ主題歌『全身全霊Open Now!』song byガールズジョッキーまでたどりつく。

SPATIO『泣きそう』『レジスタンスガール』、SPATIO kids『温泉サンバ』、ナナエ『シューティングスター』『恋の話しよ!』他、ご当地アイドル、地下アイドルに歌詞を提供中。

週末はもっぱらアイドルを追い掛けている。

Twitter:t_pink_t

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