【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。夏曲編
ゴールデンウィークが終われば梅雨ですが、それでも夏はもうそこまで来ています。
「夏が来れば思い出す~♪」ではありませんが、この回はアイドルのとっておきの夏曲を取り挙げ、歌詞作りのヒントを探してゆきたいと思います。
お手本神曲:仮面女子|夏だね☆
作詞は永田雅規さんです。
変化する楽曲
最近はやりの芸能人がカラオケを歌うだけの番組。
「なんで歌に関しては素人の芸能人のカラオケを電波で流すんだ?」と否定的な意見もありますが、私は案外好きです、めったに見ませんが。
タイトルに「歌うま~」とかそれらしいものを付ければ一応番組にはなります。
オリジナルの持ち歌が少ないアイドルはたくさんの楽曲をカバーして歌ったりパフォーマンスしたりしますが、「完コピするぞ」と「自分たちが歌いこなすぞ」とのスタンスでは大きく違います。
強い意志さえあれば、どちらの気持ちでも良いと思います。
ただ私の勝手な見立てでは、大抵はそのような心意気も見られず?
なんとなく歌っている場合が多そうです。
「本人からこの歌を奪ってやるぞ!」ぐらいの本気見せないと、カバー曲の演目はただの時間つぶしで終ってしまう事もあるでしょう。
「夏だね☆」はたくさんのグループユニットが歌っているので、ここでは代表して仮面女子と表記します。
歌うユニットが違うと曲の感じも大分違うので、そういう意味ではこの「夏だね☆」は不思議な楽曲です。個人的にはイケイケで歌ったものよりもしっとり歌っているバージョンの方が好きです。
AKBグループも一つの曲をいろんなチームが歌います。
「言い訳maybe」は本家よりも「〇〇のグループが歌ったものがいい」とかは好みのレベルですが、それでも「夏だね☆」ほどは変化に富んではいません。
いろいろな「夏だね☆」を聴いてもらいたいです。
文学と歌詞
潮風にセンセーション
通り雨かきわけセミの鳴き声
新しいライトな歌詞として至極落ち着いたものです。
「通り雨かきわけセミの声」はどこか軽い文学的な匂いもします。
これもメロディにのれば文学臭さは感じられません。
キミの背中追い掛けて
波音が距離縮めるよ
「距離縮めるよ」もしかり。
すてきな表現です。
視聴者のキャッチの仕方にも寄りますが、この様な擬人法や無生物主語を意識して歌詞を書けば、あなたの歌詞表現ももう一段ブラッシュアップされ事でしょう。
私の好きなバンド東京事変や人間椅子の歌詞にはもっと抽象、難解かつ強烈な文学的表現が見られます。
音楽に挑戦する露骨に新しい理論はとても格好いいです。
しかしながらそのようなものを歌詞に込め過ぎると、逆に聴く人を選んでしまう事にもなるでしょう。
アイドルの曲の歌詞は、ある種の矜持(きょうじ)は大切ですが、間口は広い方がいいと思います。
歌詞と口語
夏だね夏だね夏らしく
とびきりな恋したいよね
「~だね」「~ね」との語尾が優しく耳に残ります。
「夏だね☆」のアップテンポがフワフワして聴こえないのもこの語尾のおかげかなと思います。
平成の初期に活躍した女性シンガー、aikoさんや大塚愛さんは歌詞に口語をうまく使っていました。
歌本や歌詞サイトでこれらの歌詞を読むのもアイデアの源の一つとなりそうです。
亜熱帯パラダイス 焦がされて
海も陽射しも輝いて
青空が味方するよ
実にアイドルらしい歌詞です。
文学的なアプローチとベタな単語を取り合わせるのも歌詞の書き方の一つだと思います。
聖なるものと俗なるものの配意、多様なストックを身の内に置いておくのも豊かな歌詞の礎となりそうです。
歌詞はオリジナルの創造ではなく共感を探す手段なのですから。
お手本神曲:つりビット|真夏の天体観測
作詞はトベタ・バジュンさんです。
融合アイドル
つりビットは釣りとアイドルを融合した融合アイドルです。
釣りのイベントや釣り雑誌のメディアにも多く取り上げられています。
その意味ではとても運営上手、コンセプト勝ちな所もあります。
釣りという社会性に対しアイドルの間口を広げることに成功したのです。
これだけアイドルがたくさんいる中、コンセプトアイドルとして特色を付けて売り出すのはとても良い事だと思います。
何かを融合させたアイドルは最近は多く
- 演歌とアイドル:演歌女子ルピナス組
- 動物とアイドル:Animalbeasts
- 日本文化とアイドル:サムライ×オトメ
他、挙げ出すとキリがありません。
融合はアイドルという最初の心の閊(つか)えを乗り越えさせる手段でもあります。
歌詞の舞台決め
つりビットの楽曲は、海、釣り、魚を感じさせるものが多く、山下達郎さんの「踊ろよ、フィッシュ」もカバーして歌っています。
これはとてもいいカバーだと思いますので、お時間のある方はぜひご覧頂きたいです。
かたくなに海、釣り、魚を意識して書く、そのようなスタイルで何曲か書くと「もう書くことがない……」となります。
しかしながら、絞り出して絞り出して、絞り出したその次がクリエイターの入口です。
何かに特化して書くことも自分の歌詞を広げる手段です。
「つりビットの楽曲はとてもいい」はアイドルファンの中では有名です。
私もそう思います。
これはファンの贔屓目ではなく純粋に歌謡曲、流行り歌として聴けることを意味しています。
遠くの花火 野原の鉄塔
校舎の窓辺から 見つめてた
学生に焦点を当てると、教室、放課後、通学路など青春の甘酸っぱさ、胸をときめかせる単語をたくさん思い浮かべられます。
アイドルの多くはティーンなので、普通のアーティストはそうとも行きませんが「舞台→学校だけ」と決め打ってたくさん書くこともいいと思います。
私の歌詞の多くは舞台が学校です。
歌詞の舞台決め、歌詞を書く時は、私はまずそこから入ります。
歌詞の舞台さえ決まれば、歌詞に散文のような伝達性はいらないです。
季節歌
恋の予感 胸に秘めて
視線そらして ロマンスを閉じ込めて
恋の予感、恋の手前、これだけで何曲も書くことができそうです。
アイドルにドロドロの恋愛は必要ありません。
「好きかも……」の気持ちが大切です。
「好きかも」と書かずにどれだけ「好きかも」を伝えられるか、その思いが歌詞となり音楽となります。
歌詞は気持ちになる前のカタチ無き思いです。
つりビットの楽曲の中にはたくさんの胸キュンフレーズが登場します。
このグループらしい清純な純粋な歌詞です。
夢の河を切なさ乗せて渡る
希望の船へと乗り込み
見えない未来進んでけ
「真夏の天体観測」は夏特有の単語がちりばめられています。
季節歌、私はそう呼んでいますが、季節を限定した楽曲は歌う時期を選んでしまうので嫌う作家もいます。
我田引水的ではありますが、季節を一つ限定するとこでも世界は広がると思います。
飲み物と一口に言っても、真夏の飲み物と真冬の飲み物は違います。
それと同じように、夏には夏の恋、秋には秋の恋、それだけで歌詞のイメージが沸くでしょう。
時には季節が歌詞を助けてくれるのです。
ライタープロフィール
アイドル作詞家・俳人
瀧乃涙pin句
何のツテもないまま作詞を開始。
数年後、文化放送ラジオドラマ主題歌『全身全霊Open Now!』song byガールズジョッキーまでたどりつく。
SPATIO『泣きそう』『レジスタンスガール』、SPATIO kids『温泉サンバ』、ナナエ『シューティングスター』『恋の話しよ!』他、ご当地アイドル、地下アイドルに歌詞を提供中。
週末はもっぱらアイドルを追い掛けている。
Twitter:t_pink_t