ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで
通常の音楽的な楽曲構成や音作りを無視したような手法で、時には純粋な楽器ではなく金属物や自然界に流れる音のサンプリング、その他ありとあらゆる方法を駆使したアーティストたちの自由な発想で生まれる「ノイズ・ミュージック」は、言葉通り聴く人を不快にするほど非音楽的なものです。
本稿では、ノイズ・ミュージックを語る上では欠かせない「インダストリアル・ミュージック」と呼ばれるジャンルの代表的なバンドの名盤を中心として、世界的に「ジャパノイズ」として高い評価を受ける日本のアーティストたちの作品も紹介していきます。
雑音の中にしか得られない特別な感覚を、ぜひこの機会に味わってみてください。
もくじ
- ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで
- PersuasionThrobbing Gristle
- Genetic TransmissionSPK
- Spread The VirusCabaret Voltaire
- Total SexWhitehouse
- The Honour of SilenceDeath In June
- Tanz DebilEinstürzende Neubauten
- 磔磔(京都)April 19, 1981非常階段
- TreblinkaM.B.
- Part 1MERZBOW
- NeuridrinaEsplendor Geométrico
- Endless SummerFennesz
- Senzuri ChampionThe Gerogerigegege
- HeadhunterFront 242
- SoqlueitMASONNA
- Clothes HoistFoetus
- Lion Of Kandahar (Extended Re-Mix)Muslimgauze
- Ultra Cockerハナタラシ
- Mr. Self DestructNine Inch Nails
- DogshitSkinny Puppy
- Mirror Man暴力温泉芸者
- The Boys Are Leaving TownJapandroids
- Spotted Pinto BeanThe Residents
- Just Like HoneyThe Jesus and Mary Chain
- 好き好き大好きBiS階段
- Angel Dust非常階段
- Kalpol IntrolFeet
- Necrosis en la PoyaEsplendor Geométrico
- Turn It OutDeath from Above 1979
- The Fall of BecauseKilling Joke
- SENZURI MONKEY METAL ACTIONThe Gerogerigegege
- FrownlandCAPTAIN BEEFHEART & HIS MAGIC BAND
- One EveningTHE JESUS LIZARD
- TerminusPsychic TV
- Tiger ChainDeerhoof
- The Magnifying GlassThe Joy Formidable
- Curse of CeauşescuINCAPACITANTS
- Drain CosmeticsSerena Mannish
- Emanation Machine R. Gie 1916SPK
- 冷たいくらいに乾いたらdip
- 想像する ねじにせんねんもんだい
- HALLUCINOGENIC幻覚アレルギー
- Start The Riot!Atari Teenage Riot
- KrautrockFaust
- Get Your GunsNine Black Alps
- My Black AssSHELLAC
- Maggot DeathThrobbing Gristle
- The Politics of Digital AudioOval
- CaressDrive Like Jehu
ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで
PersuasionThrobbing Gristle
インダストリアル・ミュージックの開祖にしてオリジネイター、いわゆるロック・バンド的なフォーマットとは全く違う発想から生み出されたサウンド、アンチ商業主義を掲げたシニカルかつ破天荒なアート活動で世界中の先鋭的なミュージシャンに影響を与えたのが、イギリス出身のスロッビング・グリッスルです。
ノイズ・ミュージック、エレクトロニック・ミュージックの歴史を語る上でも欠かせない存在である彼らの全貌を短い文章で語ることは不可能ですし、1枚のアルバムを聴けば終わりというものではありません。
とはいえ、本稿では1979年に発表された通算3枚目となるアルバムにして傑作と名高い『20 Jazz Funk Greats』に的を絞った形で紹介させていただきますね。
花と緑に囲まれた自然豊かな崖にたたずむ青年たちと美しい女性、というポートレートを使用したジャケットと安直とも言えるタイトルは、実は商業ポップスにありがちなベスト盤を皮肉ったものであり、写真に使われた舞台も実は……といういわく付きの逸品でございます。
シンセやリズム・マシーン、ノイズに淡々としたボーカルなどが織り成す妖しくも言語化不可能な魅力が咲き乱れた電子音楽は、いわゆる「普通のポピュラー音楽」とは程遠いものの、おそらくテクノや音響系のポストロックなどを愛聴されている方であれば意外にも聴きやすいと感じられるのでは?
英国音楽の裏の歴史に興味のある方は、まずはこの1枚から最初の一歩を踏み出してみましょう!
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Genetic TransmissionSPK
ノイズ~インダストリアル・ミュージックにおける重要なグループの1つに、オーストラリアはシドニーで結成されたSPKがいます。
グループが結成された経緯は各自調べていただければと存じますが、ポーズで「狂気のようなもの」を演出していた他のバンドやアーティストとは全く違う、正真正銘のガチな方々による音楽で世界中のアンダーグラウンドな音楽愛好家たちに衝撃を与えました。
1981年にリリースされたセカンド・アルバム『Leichenschrei』は最高傑作とも評される作品で、デビュー作の時点では不在だった結成メンバーの1人が生前参加した最後の作品という意味でも非常に貴重な1枚と言える代物です。
SPKは本作リリース後も活動を続け、男女二人組として聴きやすいポップなエレクトリック・ミュージック路線へと舵を切ることとなるのですが、本作にまん延する異様かつ呪術的な空気感、メタル・パーカッションの無機質な響き、うねるようなノイズ、時折差し込まれる肉声……それらすべてが渾然一体となって迫りくるさまは、まさに狂気的の一言!
同時に、音楽として全く成立していないかといえばそのようなことはなく、ノイズ・ミュージック~前衛音楽として高い完成度を誇っている、というのは非常に重要な点と言えましょう。
とはいえ聴く人の精神を不安定にさせるほどの悪夢的な副作用がありますから、コンディションを整えてから向き合いましょう。
(KOH-1)
Spread The VirusCabaret Voltaire
芸術や文学などに詳しい方であれば、キャバレー・ヴォルテールというグループ名だけで彼らが普通の音楽グループではないことに気付くはず。
1973年にイギリスはシェフィールドで結成されたキャバレー・ヴォルテールは、いわゆるダダイスムの発祥の地とされるスイスのキャバレーの名前からそのグループ名を拝借したインダストリアル~エレクトリック・ミュージックのグループ。
カットアップの手法などを駆使して実験的なインダストリアル・サウンドを鳴らしていた彼らは、後にエレクトリック・ダンス・ミュージックへとサウンドをシフトしますが、1981年にリリースされたサード・アルバム『Red Mecca』は、初期の実験精神とわかりやすい音楽としてのフォーマットが見事なバランスで成立した作品として名高い傑作です。
トリオ編成だった頃の最後の作品でもあり、初期のキャリアにおける1つの集大成と言えるかもしれませんね。
チープなドラム・マシーンによるエレクトロ・ビート、ミニマルなギターやシンセ、エフェクトが施されたボーカルが呪術的な音世界を作り上げており、ノイズも計算された形で音の装飾として使われている印象です。
スロッビング・グリッスルと並ぶインダストリアル・ミュージックの立役者であり、良い意味で「商業音楽」としてのインダストリアル・ミュージックを作り上げた彼らの功績を知りたければ、ぜひ本作を聴いていただきたいですね。
(KOH-1)
Total SexWhitehouse
「かつて存在したもっとも激しく冷淡な音楽」と自称、その言葉にふさわしい先鋭的なシンセを使った暴力的なノイズが吹き荒れるデビュー・アルバム『Birthdeath Experience』でノイズ史にその名を刻んだホワイトハウス。
1980年にボーカルとシンセサイザーを担当するウィリアム・ベネットさんを中心としてイギリスで結成された彼らは元祖パワー・エレクトロニクスとも呼ばれ、インダストリアル・ミュージック~ノイズ・ミュージックの歴史において欠かせない存在として知られています。
そんな彼らがデビュー・アルバムのリリースからたったの2ヵ月後にリリースしたセカンド・アルバム『Total Sex』は、マルキ・ド・サド著作『ソドムの120日』を引用した英文が書かれたジャケットもさることながら、一般的な音楽のフォーマットからは著しく逸脱したシンセによるノイズが延々と繰り出され、加工されたボーカルがアジテイトするサウンドは間違いなく一般のリスナーはお断りといった逸品です。
ノイズ・ミュージックに興味がある方であれば必読の名著『INDUSTRIAL MUSIC FOR INDUSTRIAL PEOPLE!!!』を執筆された持田保さんの言葉を借りるなら、まさに「ノイズ・ミュージック=反社会的」というイメージを作り上げたグループ」による禍々しく忌まわしい傑作として、一度は体験すべき音であると言えましょう。
(KOH-1)
The Honour of SilenceDeath In June
おそらく、暴力的なノイズや電子音といったノイズ・ミュージックの基本的なイメージを持って本作『Nada!』を聴いた方であれば、一般的な音楽の構成とゴシックな雰囲気も漂うメロディを持った曲を前にして思わず拍子抜けしてしまうかもしれませんね。
デス・イン・ジューンはCrisisというポストパンク・バンドで活動していたメンバーが1981年に結成したグループで、彼らのサウンドはいわゆる「ネオフォーク」と呼ばれています。
とはいえフォーキー一辺倒というわけではなく、電子音によるコラージュ・ノイズなどさまざまな要素をブレンドさせ、欧州古代神話や第三帝国をモチーフとしたエクスペリメンタルな音世界はまさに孤高の一言。
1985年にリリースされた通算3枚目となるアルバム『Nada!』は、政治的な理由で分裂してしまったグループを中心人物のダグラス・ピアーズさんが再始動させた仕切り直しの1枚であり、傑作として名高い作品です。
「無」と名付けられたタイトル通り、どこまでも虚無的で深い闇の底へと落ちてしまいそうなサウンドを聴けば、ノイズ~インダストリアル・ミュージックの世界にはこのような音楽も存在しているのだ、と理解できることでしょう。
ネオフォーク、ポストパンク、ネオサイケやダークウェーブといったジャンルに興味がある方も、ぜひ一度は彼らの音楽を体験してみてください。
(KOH-1)