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プロのリペアマンが語る!管楽器の音作りで知っておきたい3つのこと
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プロのリペアマンが語る!管楽器の音作りで知っておきたい3つのこと

「思うような音色を出したい」とお考えの方に、リペアマン視点から管楽器の特性に基づく工夫をここで紹介したいと思います。

ご自身の楽器を扱う上で大切なことを3つにまとめました。

聴覚のほとんどは脳内で作られている!

サックス

億単位のバイオリンと20万円そこそこで基本のととのったバイオリンの音色を眼かくしして比較し当てるブラインドテスト。

そこで、その高い楽器のオーナーでも正解を当てられないということが起きてしまいます。

なぜ高額な楽器の音のほうがいい音がすると思ってしまうのか、それは最近の脳科学で研究されているように聴覚を含む感覚のほとんど情報は脳内で作られているからなのです。

管楽器は音程、音色、音量、その他音楽的要素を演奏者がコントロールしていく楽器ですので、演奏者の思い込みが影響しやすい楽器なんです。

そのため好みや先行情報、例えば「このブランドだから」、「ゴールドメッキの高額な楽器だから」、「プラスチックより金属のサムフックのほうが鳴りがいい」、「あの有名ミュージシャンが推奨しているので」「音が大きい楽器なので」など偏った情報に左右され、場合によっては都市伝説のような怪しい楽器選び、パーツ選びなども存在することは否めません。

すべてを否定するわけではありませんが、イメージ先行の思い込みだけでは的外れな選択となり、貴重な時間とお金を無駄にしかねません。

一方、リペアマンは楽器の細部まで分解、加工、組み直し、そして試奏を繰り返します。

その中で得た確信や楽器自体の物の変化と演奏感覚への変化の因果関係の気づきなどご提供できればとおもっています。

今回は、管楽器ライフの先々を方向付けるかもしれない、3つの着眼点からまず理解していただきたく思います。

  1. 管楽器のメンテナンスのための最優先ポイント。
  2. 管は息で鳴るという大きな誤解?
  3. 楽器を効率的にグレードアップするには?

1.管楽器のメンテナンスのための最優先ポイント

フルート

ではひとつ目の着眼点。

管楽器のパフォーマンスの基礎となる重要なポイントは何でしょうか?

管楽器は管やキーの気密性のコントロールができて初めて本来の性能を発揮できるのです。

その上に音色の好み、菅の抜け、音程の癖の演奏者による補正作業などが構築されるので、このことがわかっていないと無駄な時間を過ごし、かえって悪影響を及ぼすこともあります。

管楽器にはその楽器に設計された倍音特性、音色を決定付ける共鳴空間があります。

これを当工房では「気の柱=気柱」とよび、この気柱のなかに隙間(リーク)が発生すると管の長さ、形状、などに影響を受けながら設計と異なる倍音が発生しやすくなります。

もしこのリークが音源に近いところで起きれば、音色はかなりダウンするかコントロールできない状態になってしまいます。

これは程度ものですが、人によってはちょっとのリークのある楽器を吹くとドライで個性的な音という好印象をもつ演奏者もいますが、それが進むと以下のような症状に陥っていきます。

まずリークがあることで、演奏時に指、体の力みをよび

など、本来の演奏パフォーマンスに影響していってしまいます。

このことはパッドだけでなく管体にもいえることで、できれば管楽器のジョイント部を接合できると理想的ではあります。

ちなみに昔のカーブドソプラノサックスなどはジョイント部はすべてハンダづけされ一体の設計となっていました。

この着眼点からの工夫要素例

自分で工夫できることもかなりあると思いますのでチェックしておきましょう。

木管楽器

金管楽器

などその一例です。

2. 管は息で鳴るという大きな誤解?

サックス

管楽器を吹く自分の息に、仮に印がつけられるとして、その印がベル先にたどり着いたときにはじめて
管楽器が鳴り始めるというようなイメージをもっていませんか?

もちろん息は重要でコントロールの中心要素ですが、音源はあくまで振動する弁です。

木管の弁はリードや風切り音、金管の弁はもちろん唇が弁ですね。

管楽器は管の端にある弁の振動が「管の中に満ちている媒体」つまり空気の柱・気柱の特定倍音と口腔空間とが共鳴して鳴るのです。

そのためにはまず効率的に振動できるフレキシブルでコントロールできる弁づくりが重要で、そして次に楽器の気柱に共鳴する口腔~喉、周辺のサイズ、形、かたさなどが重要になってきます。

息の量、スピードなどはこれらとのバランスをとりながら、鍛えるのではなく慣れていく要素になります。

このことをわかっていないと今後積み上がっていく練習時間の膨大なロスを生じます。

筒の片方を閉じてそこに電気などの振動弁をつけ「息の流れ」のない状態で実験をすると、気柱の長さ、径、容積、形状に応じた響きが得られ、音量は振動弁の運動量によります。

ベテランの演奏者は振動弁の質を高めて効率的にならすピンポイントがわかっているため、少ない肺活量でも楽器の共鳴能力を引き出し、ニュアンス豊かに、心地よいサウンドで楽器を鳴らし切ることができます。

力んだ硬いアンブシャではその硬くはりつめた弁の振動のために大量で高速の息が必要になっていきがちです。

ここに気づかないことは息のスピードや肺活量が中心課題となってしまい、たとえば、ピアニシモでハイノートを鳴らせない、音やせ、唇、身体が激しく疲労など学習効果の妨げになりかねません。

そして遠鳴りのする芯の太い音のためにはフルボリュームより、弁の振動量80%くらいのボリュームイメージ(個人差あり)で気柱の共鳴の鳴り出しを育て音響空間に送り出してあげることで実現できます。(感覚的には甘みのある芯のある音色です)

この響きの中心に乗って、楽器の素材のもつ固有振動との相互作用で気柱共鳴が促進し、その楽器本来の設計のもつ響きが出現します。

一方、管体の浮いたパーツなどのノイズが鳴るほどフルボリュームで吹けばその振動をうけて管体から固有振動がピーキーになりに演奏者の周辺でノイジーになるそば鳴りになりがちでコアな響きである気柱共鳴をもマスキングしてしまいかねません。

民謡では遠くまで声を届かせるために、ろうそくの前で炎が揺れないように発声練習する方法があるくらいです。

ヨーデルやホーミーは口腔内での気柱共鳴の最大化で平原や谷間の空気に響きを送り込んでいます。

またオペラ歌手のかたが響かせるためとして体を大きくしがちなのは、管体の肉厚化によるそば鳴り振動のダンプ機能を担っているのではないでしょうか?(説得力のある反論歓迎です)

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