スペシャルインタビュー BAA BAA BLACKSHEEPS |スタジオラグ

スペシャルインタビュー
BAA BAA BLACKSHEEPS | スタジオラグ

スペシャルインタビュー BAA BAA BLACKSHEEPS

京都が生んだ、正と負のどちらも兼ね備える新生代エモーショナルロックバンド「BAA BAA BLACKSHEEPS」。バンド結成秘話から初のフルアルバム「リハビリテイション」の制作舞台裏まで、2万字越えの超ロングインタビュー。

インタビュー
前身バンドであるTHE VESPERS結成が、2009年ですね。メンバーの皆さんはどのように出会い、バンドはどのように結成されたのですか?
dino:もともと慈雲(Vo.神部)と僕が大学の同期で。
神部:学部は違ったんですけれど、軽音関係の繋がりで知り合って。お互い別にバンドを組む訳でもなく、同じ部活に参加していた訳でもなく。
dino:元々歌っているのは知ってて、俺もベースしてて、「バンドがしてえ!」ってなって。
神部:めっちゃはしょったね(笑)。軽音部のライブだったり、学内のイベントとかで僕はよく歌っていたんですけど、それを何度か見てもらっていて。dinoが「オリジナルのバンドをしたい」ってなった時に、白羽の矢が僕に立ったみたいで。
では、dinoさんがバンド結成の発起者?
dino:いい塩梅に誘い合わせたよな。
神部:またいい具合にはしょったな(笑)。僕は大学の途中でオリジナルのバンドを始めたんですけど、そのバンドが色々とうまくいかず、完全に嫌気が差してしまって。それで「自分が心から信頼できる人とバンドがしたい」と思っていた時に頭の中にぱっと浮かんで来たのが、dinoだったんです。そうして「とにかくdinoと話がしたいな」と夜中に考えていた次の日にですね、たまたま街中を歩いていたら、なんとdinoが反対側の歩道を歩いていたんですよ。
dino:河原町で会ったな。
神部:本当にすごいタイミングで。
運命的ですね!
神部:思わず声をかけて「ちょっとお茶しに行こう」って喫茶店でいざその話をしようとしたら、逆にdinoの方から「バンドせえへん?」って持ちかけられて。僕はもう感激して言葉も出ない、みたいな。
恋人の告白みたいですね!
dino:それで最初は先輩のドラマーと後輩のギターの4人で始めたんですけど、ドラマーが割と早い段階で抜けて。
神部:そこからはずっと色々な人にサポートを頼みながらやっていました。そんな中で、VOXhallで働いていた江口を紹介されて。最初は江口もサポート枠で入ってもらって、ある時を境に正式加入を誘ったんです。1回その形で落ち着いて、2011年にはギターが脱退して、3ピース時代が始まるんですけれどね。
2010年12月18日に初の自主企画「うたの居場所」を開催されていますが、どこのライブハウスでしたか?
神部:VOXhallです。初めてのアルバムを出す記念に、自分達の好きなバンドを呼んで、写真や絵の展示も行いました。
ということは、活動期間が長くはない中で、すでにミニアルバム『セミホロウ』をリリースされた訳ですよね?
神部:ライブハウスに出始めてから丁度1年後ですね。それまではほとんどスタジオに入るだけの日々でした。
Sound Cloudで『セミホロウ』を聴かせていただきましたが、すでにこの頃に基本となるバンドのスタイルのようなものが確立されているように感じました。
dino:そうかもね、ある程度は。
神部:そう捉えてくれる人もいるんですけれど、今やりたいこととは結構違っていたと思います。その時はまだ「こういう音楽をやってみたい」っていう憧れとなる像があって、それをただやっていたくらいの気持ちだったので。逆にある程度確立されているというのは、どの辺りで感じましたか?
歌詞であったり、楽曲もストレートと言うか、すっと心に入ってくるキャッチーさと言いますか。
こにー:歌詞はそうなんじゃない?
神部:歌詞はそうだと思いますね、確かに。
こにー:メロディーもそうだね。僕はその時はまだバンドに入っていなかったんですけど、そのくらいの時から知り合いで。この近くのお店のイベントで出てもらった時に、その時からメロディはめっちゃいい歌やなと思ってて。その時は弾き語りで出てたんで、「ええ歌歌う人やな」と思って見てたんです。
こにーさんがバンドに加入されたのは?
こにー:2年前、2012年ですね。
バンド名を変えられたのはその少し前ですね?
神部:2011年の11月ですね。リードギターが1人抜けて、3人の状態で名前が変わっただけ、というのが実質だったんですけれども。前のギターの脱退を機に、たった1人でも元のメンバーがいないのに名前をずっと引きずることは出来ないと思って。
dino:そこで心機一転、名前も変えようかと。
その頃はサポートのリードの方も入れずに?
神部:はい。3人でなんとか頑張っていたんですけれどね。実はギターが抜けた時点で、こにーちゃんは「いの一番に自分に声がかかってくる」って思っていたらしいんですけれど。
こにー:絶対くるわ!って(笑)。丁度そのくらいの時に、前やっていたバンドが解散して、1人でやっているのと、サポートやったりとかしてて。ギターが抜けたって言うから、「あ、そうなん? で?」って思って待ってたんですけど、なかなか声がかからず(笑)。
神部:僕は彼が前にやっていたバンドも、彼のソロの弾き語りも見ていたので、どういうギターを弾く人か分かっていたし実力も知っていたんですけれど、知っているからこそまず自分達と一緒にやってくれるなんて思ってなくて。「なんで俺誘ってくれなかったの?」って怒り気味に言われた時にはすごく戸惑った(笑)。むしろやってくれるとは思わなかった。
こにー:丁度入る時くらいに、他にもいくつか誘われてて。元々友達だったので、2人で呑みに行く機会があって喋った時に「なんで俺誘ってくれへんの? 俺全然待ってんねんけど」って(笑)。
神部:両方片想い(笑)。それで、「じゃ、じゃあ!」みたいな(笑)。
話が前後しますが、変えられたバンド名「Baa Baa Blacksheeps」は、元々はマザーグースからの引用ですか?
神部:確かにマザーグースにある「メーメー黒羊さん」という意味のタイトルの歌からなんですけれど、それは本当に偶然で。僕が心理系の大学に通っていた時に目にした文献があって、それに書かれていたのが「black sheep」という単語だったんです。社会心理学に「黒い羊効果」=「black sheep effect」という言葉があるんですけど、それは“ある人間がある集団において、同じ集団の一員でありながらその集団から排除されたり嫌悪されたりする現象”のことを言うんですよ。要するに「仲間外れ」だと。イギリスでは黒い毛をした羊は役に立たないことから、邪魔者、村八分にされた人になぞらえて作られた言葉なんです。それが強烈に心に残っていてですね。というのも、僕は生まれた家や育ちの時点でまあまあへんてこな道を辿ってきたので、そういうバックグラウンドのせいなのか、変人扱いされる機会があまりに多くて。小さい頃から「自分は他の人とは何かが決定的に違うんだ」、という意識を持って生きてきたんですよ。で、バンドを始めてからも、相当個性的な人が多いバンドマンの中でさえ変わり者扱いされてしまうっていうのが、すごくでかかったんですね。ただ単に僕の自意識が過剰だっただけかも知れないですけれど。
単語の意味は今初めて知りました。
神部:「black sheep」という単語はずっと心にひっかかっていたんですけれど、まんま「Blacksheep」というバンドは結構いて。それで色々調べた中で見つけたのが、マザーグースだったんです。意味合いが全然変わっちゃいますけれど、僕の気持ちの上では、黒い羊、のけ者とされてきた人間が、たとえ弱々しくても「メーメー」と鳴き叫ぶことで変えられるものがあるのなら、っていう願いをこめているんです。そして、「類は友を呼ぶ」なのか分からないですけれど、集まったメンバーも全員相当変わり者なので、これは僕個人ではなく僕ら4人が「Blacksheep"s"」なんだなっていう複数形に(笑)。そいつらが「メーメー」鳴くよっていう。狼みたいにかっこいい動物じゃなくて羊っていう牧歌的な感じ、どこか憎めないところもなんだか自分達らしいなと思ったので。よくライブ中のMCでこにーちゃんが「僕ら喋れば意外といいやつですよ」って言ってるのが、まさにそれなんじゃないかなと思うんですけれど(笑)。羊は羊でも黒いからちょっとあれだけど、なんだかんだ羊なんだよ、怖くないよー、みたいな。まあそれは後付けですけれど。
そんな深い意味があったとは。
神部:心理学の用語っていうのと、そういうやつでも変えられるものがあるはずだと。たとえ誰も見向きもしなくても、ただひたすら叫ぼうという気持ちを込めて。
なるほど!
神部:江口は最初猛反対していましたけれどね。「俺はバンド名『ニキータ』がいい」って言っていました(笑)。「ニキータ」ってスラブ系の男性の名前らしいんですけれど、もう意味が分かんない(笑)。まあUKの音楽が全員好きだったということもあって、それならイギリス由来のマザーグースでいいじゃないかと。
そう思うとすごくいいバンド名ですね。
神部:なかなか覚えてもらえないですけれどね。床屋の方の「Barber」であったり、お酒を呑む方の「Bar Bar」であったり、そっちの方によく間違われるので。
これを機にしっかり覚えていただきましょう(笑)。こにーさんから見て、加入前と加入後でバンドに対する印象は変わりましたか?
こにー:印象自体はそんなに変わってないですかね。「Baa Baa Blacksheeps」になる前にギターが抜けていて、当然僕のところに話がくるものだと思ってたし、3人の体制の時から「俺どんなギター弾こうかな?」と思ってたんで、入ってからもそんなに印象は変わってないです。
もうイメージは出来上がってた的な?(笑)
こにー:ある程度(笑)。どう崩そうかな? ぐらいの感じのところで見てたので、そんなにイメージとかは変わってないですね。もちろんTHE VESPERSからで言うと変わってますけど。
神部:こにーちゃんが入ってからは、僕はだいぶ精神状態変わっていったと思うけれど。
こにー:慈雲の精神状態は変わったかも知れんな。
神部:こにーちゃんの加入はやっぱりでかかったと思う。実際入ってもらって、初めて音を合わせたのが、『そうなんだ』という曲だったんです。この曲のこにーちゃんのフレーズには不協和音が使われていて。最初、「奇妙奇天烈なギターフレーズだなー」と思ったんですけれど、後から聴けば聴くほど曲にものすごくぴったりだったんですよ。適当にこにーちゃんに音源を投げておいて、実際いざスタジオで合わす時になって、その時点で僕よりもむしろ曲のことを理解してくれていたって感じだったので。後から分かったんですけれど。
こにー:褒められてる(笑)。
神部:本当びっくりしましたね、それは。自分の立ち位置や役割や関わり方というのをすごく考えてくれてたんだなっていう。独特の彼の音色だったり、ピッキングニュアンスの美しさだったり、そういう部分もあって、そこから一気に沢山の人に評価をもらえるようになって。
こにーさんは、THE VESPERSの時のギターの方とも、全くプレイスタイルは違う?
dino:違いますね。
神部:曲によっては、前のギターにもしてもらっていたように、ある程度僕の考えたフレーズだったりニュアンスを出してもらったりというのはあります。多少は動きを制限してしまってる部分はあるんですけど、やっぱり持ち味がすごく独特なんで、やりたいことをやらせるとすごいことになります(笑)。
こにーさんの加入でバンドはいい方向に変化した訳ですね。その後2012年11月29日から2013年3月23日までライブ活動を休止されたのですね?
dino:そうですね。
これにはどういった理由がありましたか?
こにー:僕が入ってすぐの時に僕が言ったんですけど、正直まだレベルが低いなと思ってて。僕も入るし、この4人で何をするかというところ、もちろん音源も作んなきゃいけないなというところと、4人でちゃんとした歌を4人の塊で出すためには、自分自身もそうなんですけどバンドとしての基礎力みたいなものがちょっとまだ足りないかなと思って。休むんやったら今休んで、そっからダッシュしようかなと。そこからレコーディングに向けても色々詰められましたし、この期間中にそれぞれ思うところもあったりとか。もちろん恐かったですけれど、良かったかなとは思ってます。
神部:休止にどんどん向かっていったのも、僕が歌っている歌を聴いていただければ分かると思うんですが、やっぱり苦痛に満ちた歌だったり心の叫びがメインで、そういうのを一生懸命やってきたんですけれど、それだけではどうしても人の心を惹き付けられない、歌が「僕個人のもの止まり」になってしまっていた部分があったというか。ただ僕が一人で苦しみを訴えていて、メンバーはメンバーで自分達の音を出していて、「4人で本当にこの歌を」っていう風にはなり切れてなかったと思うんですよ。僕が曲を書いている以上、訴えたいものがある以上は、必死になってそれをやるんですけれど、それがあまりバンド全体の音として出せていないと言うか。それに気付くまでにも、色んな目上の人からのアドバイスだったり叱咤激励で教わることが多かったです。こにーちゃんが言ったこともそうだし、この4人でもっといい歌を、いい音を届けて、4人一緒に「Baa Baa Blacksheeps」の音楽が愛されるように力をつけなければっていう気持ちがあったので。正直不安もありましたし、一部の人からは非難もされましたけれど。
dino:「なんで止まんねん、お前ら?」みたいなな。
神部:それで愛想尽かされたバンドとかもいたし。でも、間違ってなかったと思いますけれどね、本当に。その休止期間中に『ヴァイタルサイン』っていう曲と『おまじない』という曲を書いたんですけど、その辺りで精神的に変化もありましたし、その期間のおかげで互いの音が突き詰められたと思うので。でも、「休止するってことは、よっぽどパワーアップして帰ってくるんだろう」っていう過度な期待を持たれたのは、すごくしんどかったです。
dino:そうやな(笑)。
こにー:あれはプレッシャーやったな(笑)。
意味のある休止期間であったと、今は言えるということですね。そして、『リハビリテイション』が、今年2014年3月12日にリリースされます。初のフルアルバム、そして全国流通盤をリリースされた心境というのは、いかがなものでしたか?
dino:「自分はバンドマン」みたいな自意識が結構強いかもしれないなと思うところがあって。初めてフルアルバム作ってちゃんとみんなで考えて「こうしよう」とか、「こういう方法で知ってもらえたらいいよね」とか、各々がすごい頑張ったと思うし。全然顔も知らない人に手に取ってもらえるっていうのがシンプルに嬉しかったんですけど、自分が好きなバンドと同じ店に自分らのCDが並んどるやんけっていう、この心の盛り上がりはどう言えばいいんですかね?(笑) そういう興奮もありましたし、逆に言うと同じラインに立ったからこそされる評価、それが恐かったりもしますけど。一人前って言うとおこがましいかも知れないですけど、やっと同じところに立てた、敬愛してたバンドとも戦えるようになったという感じですかね。
神部:これでもスタートラインに過ぎないのはもちろんなんですけれど、僕はようやく望んでいたことが叶ったなって。自分がまだ一リスナーに過ぎなかった頃に、とても好きだったバンドがいて。自分とは違う時代に生まれて、違う街で違う空気を吸って、違う人達と出会って生きてきた、そんな人が作ったものが今生きている自分の時間軸に届いて、それが自分の気持ちをリアルに代弁してくれるような言葉だったことに、衝撃を受けたんですね。そういう風に、ただ音楽っていう1点を介して、全く別の時間軸を生きてきた人間同士がどこかで繋がる瞬間というのがあって、それならもし自分が発信する側になって、そういう風に誰かの生きている時間に自分達の作ったものが届けられたなら、自分達の生きた証・存在証明になりますし。逆を言えばそういう人達が存在してるということを確かめることも出来ますし、そこで相互を補い合えると言うか、お互いに生かし合える部分があるんじゃないかなっていうのを、僕は音楽に対してずっと思っていたので。だからついに全国に出すこととなって、見ず知らずの人達がCDを手に取ってくれて、思い思いにその感動を語ってくれたりなんかして。ようやくやってきたことが報われた、という思いです。全国で売り切れの店舗もあるみたいですし。
このCDが売れないと言われる時代にすごいですね!
神部:それだけ曲が届く場所、人が存在していたことに、心底幸せを覚えましたね。
こにー:僕が入って初めての音源ということもあったので。今までも前のCD売ってたんですけど、「正直僕弾いてへんし」みたいなのもあったんです(笑)。
神部:それが僕らも苦痛というか、重荷だったんですよね。こにーちゃんが入ってから、「4人になったBaa Baa BlacksheepsとしてのCDはいつになったら出すの?」ってずっと言われ続けていたので。でも僕は、どうせ出すんだったらこにーちゃんが入った状態の、しかもこれまでの集大成となるようなフルアルバムを出したいと思って。なのでそういう人たちにはとりあえず我慢してもらって、長い時間をかけてレコーディングしました。
こにー:全国流通してライブ行ったことのないところの人、会ったことない人とかに聴いてもらえたりとか反応があったのは素直に嬉しかったんですけど、やっと自分がBaa Baa Blacksheepsに加入したぞっていうのを形として残せた、そっちの方が僕は個人的に嬉しかったですかね。ライブはしてたんですけど、モノがあるとないのでは全然違うので。こっからもっと、色んなものは出していきたいですけど、その初めの一つというのがこういう風にちゃんとした形で出せたというのは良かったですかね。
リリース前と後で、周りの環境等でも変化はありましたか?
こにー:自分達としてはそんなに実感していないですね。
dino:ここからみたいなところはあるよね。
売り切れ店もあるということは、今手に入れておかないと幻の、
dino:1枚になるかも知れない(笑)。
これは皆さん、早く手に入れないと!(笑) 制作に関しまして、コーラスにミナワの長谷川さん、エンジニアにミナワ・空中ループの和田さんが参加されていますね。
神部:ミナワの長谷川先生も和田さんも、過去に共演した経験があって。
こにー:長谷川「先生」って別次元やな(笑)。
神部:(笑)長谷川さんも和田さんも単純に人として好きというのもあったんですけれど、3ピース時代に和田さんから「俺と録ってみない?」って持ちかけられて録った、それこそ幻のデモCDがあったんですけれど、その時のお仕事がきっかけで、次もお願いしようかということに。長谷川さんについては、ライブハウスの対バンだったり、たまたまライブハウスで会った時の交流の中で「私歌うよー」と言ってくれていたので。
dino:そういう、俺ら以外の手と言うか、声だけど(笑)。
神部:『昨日のおとしもの』っていうTHE VESPERS時代のシングルも、デモCDもそうなんですけど、女性ヴォーカルを一つの楽器として入れさせてもらっていまして。『リハビリテイション』を出すにあたって、今度はまた別の人がいいなと思った時に、じゃあ今度はミナワの長谷川先生に!ということで。
アルバムのアートワークを手がけられた「麺類子」さんは、いわゆる「絵師」と呼ばれる方ですか?
神部:「絵師」って言われている類いの人でしょうね。最近だとボカロP、初音ミク系の曲を作っている人から絵を依頼されることが多いみたいです。僕は本当に彼女がただ趣味でネットに上げていたのを見て知って、そこから声をかけました。THE VESPERSの『昨日のおとしもの』のジャケットを描いてもらったのが最初なんですけれど、次もやっぱりあの人しかいない、となって。
こにー:会ったことはないんですよ。
神部:未だに電話すらしたこともないです。
dino:声聞いたことないよね。21世紀っぽいでしょ(笑)?
ボカロPさんとニコニコ動画での共作なんかはよく聞きますが、実際にこういうアルバムという形での共作もあるんですね。
神部:アートワークってなった時に、自分の心に響くものを持った人じゃないと、ただCDという体裁を整えるためだけに素材を用意したりするのは僕はすごく嫌なので。たとえ実際の音楽と結び付く部分が少なくても、自分というパーソナリティが感動して選んだものには、きっとどこかで接点があるはずだと僕は信じているので、そういう意味でこの人しかいないと思っていたんです。
作詞と作曲は全て神部さんによるものですが、先ほど「苦痛に満ちた歌」という話もありましたが、作詞においてのこだわりやスタンスについてお聞かせください。
神部:喋ろうと思えば何時間でも喋れますけれど(笑)、大事なところだけ。これは結構誤解されやすいと思うんですけれど、そしてそれは決して解きたい誤解でもないんですが、僕の歌っていうのは、別に「僕個人の体験を綴った歌ではない」んです。普通の感覚で聴けば、「この人よっぽど大変なんだな、かわいそうだな」なんて思われるかも知れませんけれど、あれはあくまで僕の感情だったり感覚だったり記憶を通して、ある不特定多数の人を想定して書いているというか。僕の人格を起点に作られた以上は、そういう風に見えてもしょうがないとは思うんですけれど、あくまで僕が描こうとしているのは、「そういう精神状態に陥った人間が感情を吐露するに至るプロセス」と、「それが指し示す意味」なのであって、決して僕自身がこういうことを歌わないと気が済まないから歌っている、という訳ではないんですよ。
そこは確かに誤解されやすいかも知れませんね。
神部:あとは技巧的な部分で言うと、意外と気付かれないところで韻を踏むようにはしていますね。これはなかなか言われないんですけれど。
BGMとして聴いていたり歌詞カードを見たりするだけでは分からないかも知れないですね。
神部:そこまで分かりやすい韻の踏み方ではないと思うので。ただ単純に母音が一致しているだけであったり。
こにー:そういう時の慈雲はすごいかわいくて。曲を書いてきて、いい韻の踏み方が出来た時は大体、「こことここがさー」って言って持ってくるんです(笑)。ああ、慈雲かわいいなと思って、僕らは見てます(笑)。
神部:その部分と該当部分を2回わざわざ弾き語りをして聴かせて、「どう?」って(笑)。「ほら、今のここがこうで、こうで」って。みんながあんまりぽかーんとしている時は、僕はわざわざホワイトボードにまで書いて説明するんですけれど(笑)。
こにー:「大丈夫、分かってる」って。
神部:っていう、すごく悲しい空気が流れる時があります。
そういう仕掛けもされているんですね。
神部:仕掛けはかなりしていますね。1曲の中でもそうですし、全曲通した時に、多少こじつけであっても、ある程度どこかで仕掛けが発動するようには作っています。『昨日のおとしもの』も、最初の曲に最後の曲の終わりが繋がるように書いたり。アルバムリピートを前提にして作っているんですよ。そういう風に作詞の部分は単純に「メッセージ性」や「感情の吐露」っていうのはもちろん、それ以外にも楽曲の構成の中で時間軸があっち行ったりこっち行ったりしてるとか、謎解き要素がちょっとはあるんです。『リハビリテイション』に収録されている『トゥルーエンド』という曲は、最後に「あなたに 会いにゆくよ」って歌っているんですけど、「あなた」には結局会えないってことが、歌詞をよく読んでいると分かるんですよね。あの曲は、各節で時間軸があっち行ったりこっち行ったり、可能性としての未来に行ったりとかもするんですけれど、そういう風に実は時間軸をずらして書いたりとか。
そういう謎解きを考えて聴いてみたら、また新しい発見があるかもですね!
神部:そうですね、もっと見えてくるものがあるんじゃないかと。
深いですねぇ。。
神部:僕がとにかく強調したいのは、「僕の歌は僕個人のものだけではない」ってところですかね。要するに誰かにとっての歌にもなるように作っているつもりです。他にも、僕の歌詞に出てくる「君」っていう単語、日本語で聴くと二人称に聞こえますけれど、英語の「You」と同じ感覚で書いていて、僕の中では三人称のつもりでもあるんですよ。「君」が多数いる曲もありますし、一人しかいない曲もありますし。そういう風に、聴く人がある程度自由に解釈できるようにっていうのはありますね。書き手としてこれだけは絶対譲れない、っていう部分ももちろんあるんですけれど。聴いた人が好きな「君」を思い浮かべられるようにとか、例えば全然そのつもりがなくても恋愛の歌に聞こえるように作った曲とかもありますし。少しでもその人の歌にしてほしいっていう気持ちで書いていますね。
神部さん自身の体験を語っているのではないとは言え、胸を抉られるような、ある種痛みを伴うような苦しくなる歌詞、それが一つのスタイルにもなっていると思いますが。
神部:ありがたいことにみんな「胸が抉られるような」とか「思い出したくなかったことを思い出した」とか、「聴いたら辛くなる」っていう風に言ってくれるんですけれど、意外な程。それってつまりみんなが苦しい思いを僕らの曲の中で追体験したってことじゃないですか。楽曲を作る上ではそれが成功することが僕らの第一目標なんですけれど、本当に大事なのは、どうしてわざわざそうやって苦しくなる歌を作るんだろうっていう疑問のワンアクションが欲しいんですよ。「この人達はよっぽど辛いから、それを吐き出したくてやってんのかな?」で止まっちゃうと、僕らの思いとは全く違っていて。なぜ僕らの音楽がそういった形をとっているのかっていう風に疑問に思うところから、そしてそういう奴らがなぜ音楽を通してでもそれを言って、しかもなお生きているのかってことを考えて欲しいんですよ。
一つの提示な訳ですね。
神部:その疑問こそ実は狙っていて。苦しいってことを分かって欲しい、共有したいだけじゃないんですよ。なんでなんだろうと疑問に辿り着いた時に見えてくるものがあると思うので。アルバムタイトルにもなった『リハビリテイション』という曲の中でも、「会いたくない人 知りたくない人 行きたくない場所 聴きたくない音」という歌詞があって、それって嫌なことだらけなんですけど、でも「それでも僕は 僕に続いていく」って綴るんですよね、歌詞が。なんで? そんなにしんどいなら死んじゃえばいいじゃん、人生やめちゃえばいいじゃんって思うんですけれど、でも何故か生きようとするその根源的な力って何なんだろう? という疑問に辿り着いてもらいたいです。生き様を見せるなんてレベルのものじゃないですけど、それでも「なんか生きようとしてるんだな、こいつら」っていうのが、音楽を通して伝われば。そしてそれは僕たちだけの話じゃないんだよってことに気付いて欲しいですよね。なんだかんだどっかで生きてしまう、生きようとしてしまう、その根源的な得体の知れない働きみたいな、それをみんなに感じて欲しいんです。
実はものすごくポジティブなのですね!UKの音楽が全員好きというお話しがありましたが、音楽的バックグラウンドの上で共通しているところはその辺りでしょうか?
dino:Radioheadとかじゃないの?
神部:UKのそういう代表格、90年代のUKロック、と言ってもやっぱりRadioheadかな?
こにー:一番共通してるのはそれで、後は多分バラバラですね。僕が一番違うと思うんですけど。
神部:みんな僕と一緒に音楽やると決めた以上、やっぱり歌が好きなんだと思うんですけれどね。僕は父親が団塊の世代で、フォークとか歌謡曲とか、その世代が聴いていた音楽のそばで育ったので。歌の情感を大事にしている音楽っていうのを、みんななんだかんだ好きなんじゃないかと勝手に思っていたんですけれど。
dino:間違ってはない。それも好き。
神部:やれどのバンドがとかミュージシャンがっていう風に、個別に挙げるとかなり違いが出ちゃうんですよ。だから「こうこうこういうミュージシャンに代表されるように、こういう感覚のことをしている人達みたいなのが好き」といった、そういうすごく精神論に近い話で繋がっているというのがたぶん正解ですね。じゃなかったら、僕の曲をやろうってなれないと思うんで。どうなんですか、その辺?
dino:単純に普通に音楽好きだけどね。言ってるように、全然違うバラバラなのが結構好きなんですけども、個人の中でも。芯のあるアーティストっていうのは共通して好きだなと思うんで、言ってることは全然正しいと思うんですよ。
神部:あとは自分が崇拝に近いくらいすっごく尊敬していたり、すごく愛している音楽が、みんなそれぞれ一つや二つあって、それに対する気持ちの向け方も似ているかなと思いますね。
dino:ああ、そうかも!
神部:「これがこうこうこうだから俺はこんなに愛してるんだ!」っていう猛る思いみたいなのが、それぞれ対象が違っても共通していると思います。みんな自分の愛しているミュージシャンに対する気持ちの向け方はそれぞれ強いので。
対象は違えどベクトルは共通している?
神部:本当に観念的な精神論的な話になってきますね。
こにー:すっごい面倒くさいバンドみたいに聞こえるんじゃない(笑)?
神部:いいよいいよ、どんどん文語使っていこう、文語(笑)。
dino:じゃあ、文語のくだりになったところで、俺はドロンしますね(笑)。
こにー:「ドロン」って(笑)。
dino:昭和(笑)。さっき21世紀って言ったけど昭和で!
(ここでdinoさんが所用につき退席)
神部:メンバーの好きな音楽っていうのは、多分僕らの音楽性という話に繋がってくると思います。
それはどういうことでしょうか?
神部:まず第一に「こういうジャンルの音楽がやりたい」っていうのを、僕が一番考えてないんですよ。人によってはカントリーな音楽とか、空間系の透明感のあるポストロックとか、みんなそれぞれ目指しているジャンル・ある程度の枠組み・立ち位置があると思うんですけれど、僕は音楽は自分がメッセージを伝えるための、言い方は悪いですけれどツールと思っているというか。音楽そのものが目的ではなくて音楽を通して実現できることに興味があって。なので、曲によって曲調というかジャンルがちょっと違うと思うんですよね。それは僕が強烈にあるジャンルの音楽をやりたいと思っている訳ではなくて、どんなジャンルの音楽であっても、思想をそこにしたためてきたりとかメッセージを放っていたり生き様であったり、やっている人間の側に興味があったので。
「音楽そのものではなく音楽を通して実現できること」、「やっている人間の側」への興味というのは、ミュージシャンとして意外かつ新鮮です。
神部:音楽をやる以上は音楽でなければいけないのはもちろんそうなんですけれど、その時その時の自分の訴えであったり吐き出したい感情にふさわしいと思った音を、自分の引き出しの中から引っ張ってきているというか。その引き出しの中の音楽も、自分が愛してきた音楽や影響されてきた音楽なのかと言うと、それもたぶん違うんですね。あえてすごく泥臭いフォークを選んでみたり、全然聴くのが好きじゃないJ-ROCKとかパンクっぽいようなジャンルの音楽からヒントを得て出してきたりとか。メンバーもみんな好きな音楽が違うので、やっぱり何かミュージシャンに対して特別な思い入れがあるっていう一点だけで繋がっているんじゃないかなと思います。だからみんなにはプレイヤーとして僕の音楽を各自なりに楽しんでやってもらうっていうのが、僕の理想です。
確かにこれまで多くのアーティストにインタビューさせてもらいましたが、ある程度はルーツや好きであろう音楽の想像がつくんですけれども、Baa Baa Blacksheepsは分からないですよね(笑)。何をもとにこのような音楽が生まれるのか、想像がつかないです。
こにー:それは僕入ってからより分からんくなったよね。
神部:そうだと思いますね。
こにー:突拍子もないことをするので。「どうやったらこの歌潰せるやろ?」っていうのを、実際には潰さないですけどある程度元々のプレイスタイルとしてあるので。それを超えてくる歌い手が好きでそういう人とバンド組んでやっていたので、ここに入ったのもそういう理由なんですけど。
神部:って言いながらもですね、やっぱり僕の歌とか出したい気持ちとか、1曲を通して出す音の中で、こにーちゃんは立ち位置や役割をすごく考えてくれるんですよ。歌を聴かせたいところは音を下げたりクリーントーンにしたりとか、もしくは歌がもっと前に出て行くようにリズムのあるカッティングをしたりとか。もしくは歌を食いかねないくらいの音量と強烈なフレーズを出すことで、その瞬間に歌っているメロディがより補完されたりとか。リードギターがそれほどまでに猛り吠えることで、逆にその時に歌っている感情がより浮き彫りになる、みたいな。なんだかんだ、考えてくれているんですよ。
それはすごいライブを見ていて感じました。
神部:そういう意味では、良くも悪くも独特なんですかね?「独特の世界観が」みたいなのはどんなバンドでもよく聞きますけれど。僕自身は別にすごく特殊な音楽をやっているつもりはないので、ただやっている人間とやり方が特殊なだけなんじゃないかなと思いますけれどね。そこにまた特殊な人が加わっているし(笑)。
だけど、すっと入ってくるんですよね。メロディは耳に残るし、すごいなと思います。アレンジについては、ある程度メンバーの皆さんにお任せしていますか?
こにー:要所要所では慈雲が作ってくることもあります。例えば慈雲がドラムこんなパターンから入ってみてとか、ギターこんなんでとか。ベースだったらこっちのルートにしよう、っていうのは要所要所で言うんですけど、それ以外の細かいところのフレーズだったりとかはそれぞれに任せられてて。展開に関しては皆でちょいちょいちょいちょい言いながらやっている感じですかね。
神部:というのもですね、THE VESPERS時代は僕のほぼワンマンバンドだったんですよ。自分の思い描いたもの通りにやってもらうということが強くて。やっぱりそれだと面白いものが出来ないというのと、実際僕の言った通りにするというのはプレイヤーとしては楽しくないじゃないですか。みんなの持ち味を出したいっていうのを考えた時に、こにーちゃんが加入した後に「この4人で音楽をやっている」という感じを出したかったんですよ。僕が1から100まで作って、それをメンバーに再現してもらうだけのバンドだったら、ソロアーティストにバックバンドをつけるのと変わらないじゃないですか。そういう話もあって、さきほどの休止の中で「4人で作る」というのをとにかく主眼において作った曲があるんですけど、そのあたりからみんなに自由度を少しずつ譲歩していって、っていう感じですかね。僕が「こういうオケだし」、「こういう雰囲気だし」、「こういうフレーズだし」って言う曲もあるんですけれど、オケからみんなで出し合った音で、初めて4人で作り上げた音もあるので。
こにー:僕は入った時から自由でしたけどね(笑)。人から言われてやるのがそんなに好きじゃない、コピーも全然やったことがなくて。最初はちょっとやりましたけど、あんまり興味がないんで、他人がやれることをやるのが。僕は最初から自由にやってました(笑)。
神部:僕と、こにーちゃんと、江口と、dinoと、一人一人じゃないと出せないと言うか、出て来ない、それぞれの音の融合体でいいものを作れるように目指そうって話になったので、ある時を境に。僕が最初から考えていたものが、「どうしてもそれしかない」と思った時は、譲らないこともありますけれど。
こにー:『おまじない』のイントロとかは慈雲が考えてるんですけど、そこは「どうしてもこれがいい」って。「分かった!」っつって。
神部:なんだかんだそれを1番サビ終わりの間奏だったり、後半のソロとかできれいにアレンジしてくれるっていうのが、こにーちゃんなんですけれどね。
お互いの役割ががっちり噛み合っている感じですね。
こにー:そうだといいですね(笑)。
アルバムラストを飾る『リハビリテイション』が、アルバムのタイトルチューンでもありますが、想定として誰の、どんな傷や痛みに対する「リハビリテイション」でしょうか?
神部:不特定多数なんですけれども、不特定多数でありながら、やっぱり自分と近しいところにいる人達のことを考えていました。コーラを飲んだことのない人にコーラの味って、説明できないじゃないですか。
確かに(笑)。
神部:飲んだことがある人達だったら、感覚を通して「ああー」って言い合うことはできますよね。とか、みんな体にどこか絶対1カ所はすり傷とか作ったことがあると思うんですけれど、似たような場所に似たような傷の付き方がした人じゃないと、「そこ、痛かったね」って言えないじゃないですか。生きていく中では、そう言ってくれる人の存在がやっぱり必要なんですよ。躓いてしまった人達の中には、自分は何が苦しいのかも分かっていない人だっていると思いますし。生きてきた中で「これこれここが辛い、ここが嫌だ」って、それこそ僕みたいな人間でも思うんだから、それだったら他の人だってみんな思っているに決まっているだろうっていうのが、僕の考え方だったんですけれど。その人達を見つけるためのアルバムとして『リハビリテイション』を作ったんです。同じような経験をした人にしか分からない、理解できない部分がもちろんあると思うので、期待していたのは、「そうそう、それ、正に自分のことだ。そう思ってたんだよ」っていう風に言ってくれる、自分と近しい経験・感覚を抱いてきた人達が、リハビリ出来るようにっていう。体の傷って目に見えたらやっぱり痛そうに見えますし、みんな同情するじゃないですか。松葉杖をついている人を見たら肩を支えてあげようとするかも知れないけれど、心の傷に対してはみんなどうしてそういう風に思ってあげられないんだろうって、僕はずっと思っていますね。身体の傷には気の毒だと思ったり助けてあげようとするのに、どうしてか心の傷にはなかなかそうなれない。
こにー:根本のコンセプトとしては、心に傷を負った人が、ある程度他者であったり世界に、だんだんと心を開いていって動き出していく。一つのアルバムを通して聴いていくと最終的に『リハビリテイション』っていう曲があって、解放されていくようにはなってるんです。一番根幹はそこなんですけど、そこだけじゃない、言葉の色んな仕組みがあったりとか、楽曲的にもプレイ的にも色んなところがあるので、それ以外の人にももちろん聴いてもらいたいなとは思っています。一番のコンセプトとしてはそういったところの人が、さっき慈雲は僕が入ったことで心境が変わったと言ってましたけど、慈雲が実際に外向きになってきたというのもあるし、今までのTHE VESPERSからBaa Baa Blacksheepsになって、僕らがもともと慈雲の私小説的に書いてた曲やったりしたところから、だんだん色んな人に向けられるようになってきたというところも、バンドの経緯も含めて、お客さんもそういった人もいると思うので、そういった人向けにという現実的になってしまうかも知れないですけど、コンセプトとしてはそこですね。
神部:僕ら自身の「リハビリテイション」でもあった訳です。バンドとして、内向きな曲しか、内向きなパフォーマンスしかできなかった僕らが、もっと多くの人に音楽を届けるためにはどうしたらいいのか悩んでいく中で、だんだん「少しでも人に受け入れられやすいものを心割いて作っていかなければ」という気持ちに向かっていく、バンドのリハビリテイションの過程でもあった。僕自身のリハビリテイションと思って聴いてくれる人もいると思いますし、それはそれでいいです。自分がまさかリハビリしなきゃいけないなんて、気付いてしまうことによって余計に辛くなってしまうような状況に置かれた人もいるでしょうから。例えば、「なんでこいつはこんな苦しい曲を書きながらリハビリ出来たんだろう」って、僕の物語だとしか認識していない場合も、そこから自分がリハビリするためのきっかけを得られたなら、素晴らしいことだと思いますし。単純に「そうだよね、分かる分かる、私もそんな気持ち」と思ってくれてもいいですし、「このバンドはなんか大変だったみたいだけどリハビリ頑張ったんだって」とか、「へえ、こういう音面白いじゃん」って思ってくれる人がいてもいいですし。そういうところも、解釈は自由に出来る。あくまで話したことは僕らの根底にある気持ちというか、部分的なものですね。
「内向き」と先ほどおっしゃられましたが、先日のライブを見る限り「内向き」を一切感じないパフォーマンスでした(笑)。
こにー:本当にそうなったんですよ。昔は、僕が外側から見てたときも「なんちゅう鬱なバンドだ」と思ってたんです。「鬱だ、でもナルシストだな」みたいなバンドだったんですけど(笑)。バンドがしたくてバンドしてるっていう、バンドっぽいことをしてるんだろうな、この子らは、と思ってたんです。そういうところでも最近よく思うんですけど、バンドになったなと。自分が入ったどうこうの問題ではなく、もちろんちょっとあるかも知れないですけど、元々友達だったというところも含めて、バンドになったなという感じはあるので、そういうところも含め外に向けてちゃんと出せるようになってきたのかなと思いますけどね。
音源を聴く限りでは想像できないライブパフォーマンスだったので、本当にびっくりしました。
神部:それも欠かせないことと言うか。逆にそういう気持ちを、今この瞬間に生きている人間がこれだけの思いで吐き出しているっていう風にとってもらわないと困るので。こにーちゃんはよく、ライブの時に「本当に今生きようとしてる」ってことを言ったりとかするんですけれど、まさに「ライブ」=「Live」という言葉は「生きる」って意味だし。こんなやつでも、こうやって苦しんで叫んでいても、辛くても、それでも生きているんだっていうことを、パフォーマンスとして見せつけることは大事なことだと思っているので。そうでもしないと、ただ棒立ちでにこにこ笑顔で静かに歌っているだけでは、あの曲は伝わらないと思います。最初の頃は、僕らの技術だったり力の無さというのがもちろん原因だったとは思うんですけれど、こういう気持ちを吐き出す、歌でわざわざするっていう意味を誰にも理解してもらえなくて。それがやっぱり辛かったですし、「どうせ分かる訳ないだろ?」っていう、まあお決まりの文句ですけれど、そうやって誰にも分かる訳ないと思ってふてくされて、それならもう自分だけの歌でいいと思っていたんですよ。でも、そうじゃない。僕がもともと一番最初に歌を書き始めた時に思った、「誰かと同じ気持ちを共有したい」っていう、「そうすることで別の時間軸を生きていてもお互いに生きてきた時間や意味を補い合いたい」っていう気持ちが、実現できるんだということに気付いて。そうして誰かの歌になり得るかも知れないと思うようになってから、僕の歌が外向きになったって言われるようになりましたね。僕の心境の変化で、ライブの後にもらう感想が正直に、如実に変わったというか。
同じ曲を演奏していても?
神部:たとえばnanoの店長のモグラさんは、昔からやっている『耳鳴り』って曲のことで、「こいつは幸せになりたいって今言わないと本当にやばい状態なんだなって思っていたのが、今はただひたすら本心から幸せになることを願っている男の魂の叫びになった」っていうようなことを言っていました。目上の人達がしたり顔でにやにやしながら「外向きになったね」って言ってくるんですよ、最近(笑)。
逆に昔の神部さんを知らないので、今としては見てみたいですけれども。
神部:その頃は、本当にもう……。MCも僕が全部喋っていたんですけれど、よく言われていたのが、「通夜のような空気」(笑)。ライブ1本を通して。
こにー:お寺の子なんで、それも含めたジョークも兼ねて「通夜みたいな感じ」(笑)。あと、「説法タイムがまた始まった」とか。
神部:長過ぎるMCが通称「説法」と呼ばれていました(笑)。未だにそれを待ち望んでいる、ほんっとうにコアな人達もいるみたいなんですけれど。人間一人が生まれるのに必要な過程とかをMCでだらだら喋ったこともあります(笑)。
こにー:それしんどいわ(笑)。早く曲やれ、ってなりますよね(笑)。
逆に今にして聴いてみたいです(笑)。ライブの立ち位置ですが、通常でしたらヴォーカルさんは真ん中ですが、今は常に神部さんが上手ですか?
神部:THE VESPERSの頃は僕は真ん中だったんですけれど、今の形は僕らにとって大事な意味を持っていて。よく舞台とか演劇とかって、幕が閉じている時に司会の人とか語り部っていうのが、袖の方に立っていたりするじゃないですか。あれと一緒で、僕はあくまで主役じゃないんですよ。僕の歌が何より前に出るべきバンドとは言われますけれど、それを立ち位置でいかにも僕を全面に押し出している風にする必要はなくて。さっきも述べたように、決して僕自身の歌を歌っている訳ではないってところにも繋がってきますね。物語の語り部が袖口で物語を読んで観客が心動かされるように、語り部として歌っている僕とメンバーたちを一つのお芝居として見ながら、自分達の気持ちや日常や出来事と照らし合わせて、何か心動くものがあればっていう。物理的な話をすれば、僕があの位置にいる方が江口とアイコンタクト取りやすいっていうのもあるんですけれど。
こにー:もっと言うと僕が伸長が低いので、後ろの江口が見えやすいっていう(笑)。慈雲とdino、二人がでかいんで。
神部:黒い巨塔が、左右にボーンと(笑)。今の位置になって良かったなと思うことは、自分が歌っていない間奏なんかでみんなの顔がちゃんと見られるんですよ。それは本当に幸せに思いますね。『明るい曲』の間奏とかで、こにーちゃんとdinoの顔が、トーテムポール式に上下に見えるんですけれど、江口もやはりハイハットに向かう時の顔が左向きなので、自然と僕と目が合いますし。それで、「メンバーと今一緒にライブしてるんだな」という気持ちを抱けるようになったっていうのは、僕個人にとってすごく幸せなことです。根底にあるのはそういう、「あくまで僕は語り部でしかない」っていう気持ちでやっているんです。初めて観た人にはよく不思議に思われるみたいで、そのコンセプトを話した上でも、全く理解出来ない人もいるみたいなんですけれどね。
こにー:僕、一人だけ黄色いタイパンツで出てきて、髪の毛バッサバッサで、いかつい空気出して、マイクもMC用に立ってるんで、大体僕がヴォーカルと間違われることが多いんですよね。
神部:「真ん中の人がヴォーカルかと思ったら、まさか上手の人だった!」っていう。
こにー:ライブ終わった後にtwitterとか見たら、そんなん多い(笑)。
神部:あと、僕はずっとマイクに口をつけてなきゃいけないので、好きに動けないんですよ。それに、激しさを伴う曲の中で、ど真ん中で変わった感じの、異様な雰囲気を醸し出しているギタリストがものすごい暴れ狂っていて、その横で冷静に歌っている人間がいる図式というのは、やっぱり面白いなと思って。
実際面白かったです!エモーショナルさが倍くらいになりますよね。
神部:その辺は彼が前のバンドをやっていた頃からかなり惚れ込んでいたので。こにーちゃん、前はチューリップハットを被って下半身を固定したまま上半身だけがぐちゃぐちゃ動き回るというパフォーマンスをしていたんですけれど、それがもう本当に好きで。そんなのを真ん中でやってくれたら楽しいなと。そしたら、安心して横で歌える。
そういう、立ち位置の秘密があるのですね。
神部:ヴォーカルが真ん中にいるっていう説得力よりも、真ん中で暴れるやつがいるっていう見映えの派手さの方が、僕は好きだったので。
ライブのペースは今、月どれくらいですか?
こにー:月2,3本?
京都はやはりnanoさんが多いですか?
こにー:最近はGROWLYですかね? 時々VOXhallにも出たりという感じなんですけど。
神部:nanoは本当に僕らにとってホームみたいな場所で、もう心は置いてきてあるので。
こにー:「心は置いてきてた」って言うとすごいかっこいい捨て台詞みたいな感じだけどさ、
神部:よく分かんなかったね(笑)。
一同:(爆笑)
神部:言った後に、脳内で「・・・」って(笑)。
「心を預けてきている」?
神部:それに訂正してください!(笑)
そんなアットホームなnanoモグラ店長は、バンド初期からずっと見てくださってると思いますが。
神部:恩師です。nanoが、モグラさんがいなかったら、たぶんもう音楽していないです、僕。死ぬか生きるかの瀬戸際に立っていたので。ライブが終わった瞬間に飛び出して街中に走って逃げるみたいな、そんなライブを繰り返していた頃に、ずっと傍で見守ってくれたのがモグラさんでした。
こにーさんも昔からモグラさんとはお知り合いで?
こにー:ここ入る前からもnano出させてもらってて。何て言うんですかね? 僕からすると「恩師」というか「近所の優しくてちょっと恐いお兄ちゃん」みたいな感じがするんですよね。
神部:分かる(笑)。
こにー:機嫌を損ねたくはないけどつっつきたくなるみたいな、でもちゃんと真剣な話したらすげえ真面目に答えてくれるし、すげえバカなことも一緒にやってくれるし。そういう感じの印象があります。
神部:初対面で僕、モグラさんと口論になったので、ファースト・インプレッションは最悪だったんですけれどね(笑)。
口論ですか?
神部:売り言葉に買い言葉という感じでしたね。VOXhallでライブし終わった後にたまたまモグラさんがやって来て。バーカンでVOXの人と喋っていたら、モグラさんが横やりを入れてきて。「それはちゃうやん」みたいな。「なんですか、あなた?」ってなって。「なんかよう分からんやつがぬかしとるわ」っていうモグラさんと、「なんなんだこの人は? 人が真剣に喋ってるのにいきなり横やりを入れてきて、誰なんだ?」っていう、最悪な出会いでした(笑)。
そんな出会いから、今はお互い分かりあえる関係に。
神部:最近は全然構ってくれないんですけれどね……。
こにー:そんなことないやろ!(笑)
現在、京都にはライブハウスもスタジオもたくさん増えました。この状況はバンドマンにとってはやはり歓迎する環境ですか?
こにー:僕は全然いいと思ってます。スタジオに関してもライブハウスに関しても、色んな特性があって。僕はずっとイベントをしてたんですよ、モダンタイムスで。モダンタイムスの店長は、ここから巣立ってメジャーに行ってくれという感じではなくて、ここを踏み台にして他のすげえライブハウスに出てそっからメジャーに行ってくれ、みたいな。最終的にツアーとかで京都寄った時にちょっと飲みに来てくれたらいいよ、みたいな店長なんですよね。そういう人もいますし、もちろんビジネスライクにやっている人も。ビジネスライクみたいなところでやってるバンドが全部悪かと言うと全然そんなこともないし、スタッフさんもそんなこともないし、そういうところですげえ頑張ってやってきたからお客さんを呼べる力を持って行くバンドもいるし。本当に様々だと思うんですよ、バンドの育ち方とかミュージシャンの育ち方とか。そういうのって、スタジオももちろ色んな所で色んな人に会わないと分かんないんですよね。若い時に、「ここのライブハウスとここのスタジオがいいよ」って言われて、そこにだけ行ってて分かりますかっていうと分かんないんですよ。僕らがどうだかな、と思っているところでも、そこでしか育たないミュージシャンも多分いるでしょうし、そういう風な機会に恵まれるっていう意味では、僕は京都ってすごい街だなって思います。
現在京都の音楽シーンで好きなアーティストや共演してみたいアーティストはいますか?
こにー:すっげえ好きな人達いっぱいいるんですけど、いざこれ出してと言われると難しいですね。。
神部:京都という場所に来て良かったと思うのは、そういうところですね。地域によってやりたい音楽が固まっている、偏っているところって多いと思うんですけれど、京都ってただみんながそれぞれ好きなようにやっているんですよね。やろうとしていることが違っても、純粋に音楽として好きになれる人達に沢山出会えたので。
こにー:選べと言うのは難しい話だなぁ。皆好きですよ(笑)。
神部:そういう意味では幸せ者だなと思います。
こにー:それだけ色んなアーティストと関わってきたと言うことでもあるんで。
今後の活動予定についてお聞かせください。
こにー:大きいので言うと、西院ミュージックフェスティバルと、8月のnano borofesta、10月のborofestaの本祭に呼ばれてる感じですかね。リリースに関しては、今までの集大成として『リハビリテイション』を出したので、またやりたいこと・伝えたいことは全然別な感じであって、ライブでも新曲はやってますけど。
神部:時期とか動き方って部分の話は現段階では正確にはお話できないですけど、気持ちとしては『リハビリテイション』の後にリリースするCDに注目はして欲しいですね。リハビリを終えた先に何を作るのかという、そういうところもあるので。結果的に後から振り返ってみないと分からなかったんですけれども、THE VESPERSの頃から『セミホロウ』、『昨日のおとしもの』ときて今『リハビリテイション』を出して。よく音楽雑誌とかで色んなメジャーミュージシャンのアルバムの変遷推移とかシンガーソングライターの心境の変化とか語られるじゃないですか。あれが、ようやく分かったんですよ。ヴィジョンであったり思想であったりっていうのが、少しずつでも確実に定まってきてるというか。もしくは心境の変化に伴って音も変わっていくというところも含めて。そういう意味で、ここまで3つ出してきて次のリリースがどう出るのかってところを、期待して欲しいですね。
次のリリースも、フィジカル、CDという形で?
神部:そうですね、敢えてこの時代にそれでもCDで出したいなとは思っています。リリース時期については、年度末くらいを予定していますけれども、ずれこむ可能性は大いにあります。
ライブやリリース以外で、こんなことをやってみたいという野望のようなものはありますか?
神部:結構色々考えているんですけれど、いざ実行するというタイミングで発表しないと面白味・新鮮味がなくなるようなことばかりだと思うので、現段階では「やりたいことがあるよ」ということだけしかお話しできないですね。
この先何かサプライズがある、ということですね!楽しみにしています!最後に、スタジオラグご利用のバンドマンにメッセージをお願いします。
こにー:僕は実は結構ラグユーザで、大学時代には北白川店を利用していました。その繋がりで、当時河原町店でレコーディングさせてもらったり。ライブスポットラグもよく遊びに行って色んな人とお話しさせてもらったりしてたんで、ラグに関わっている人達のあたたかさみたいなのが僕は割と好きです。あったかい人達がやっている場所なんで、スタッフさんだったり出会う人達と、そこで色んな繋がりや考え方の違いとか、色々なものがぶつかり合って何かできるものという部分がすごく楽しいし、バンドもそうですけどぶつかり合った時に発生するものが音楽だと思うし。それはバンド以外のところでも、ミーティングスペースで喋っている時も、そういったところをラグではすごく大事にしていると僕は思っているので、僕らももちろん聴いて欲しいですけど、そういう音楽の触れ合い方だったり作り方だったりをしていって欲しいなと思います。
神部:僕は今、僕と一緒にやってくれている3人のおかげでここまで来れたんですけれど。一緒にやっている人の存在のかけがえのなさとか尊さというのは、音楽を一緒にやっている以上はぶつかる部分があったり、お互いいがみ合う部分も出てきちゃうので、日常的にはなかなか意識できないと思うんです。でも、自分達にしか鳴らせない音、自分達にしか出来ないやり方、自分達だけの思いというのがみんな誰にでもあると思うので、それを共有出来ている仲間の大切さを少しでも、振り返ったり考える時間を持って欲しいなと思いますね。音楽を鳴らすのは人だし、バンドも音楽も人が存在しないとまず成立すらしないものですし。そういう、人と人との関わりがあって初めて音が鳴らせるんだということを、音楽を通して再認識して、そしてそれをまた他のミュージシャンやリスナーとも共有していていって欲しいです。
こにー:ラグのミーティングスペースで、『リハビリテイション』を店内BGMで聴きながら!
全店スタンバイしておきます!
神部:『リハビリテイション』はただの11個の曲を詰め込んだアルバムなんですけれど、結果的には。でも、気持ちの上ではそうじゃないんですよ。11人分の気持ちであったり、もしくはある1人の人の11日分の気持ちが詰まったアルバムなんですよ。ネタばらしをすると、今回の『リハビリテイション』もアルバムリピートを前提として作られているので、そういう仕掛けの部分でも楽しめますし、楽曲そのもののメロディやフレーズやグルーヴ感だとか純粋に音楽を楽しんでもらえても嬉しいですし、もっと言えば、「自分のアルバム」、「自分のテーマソング」だと思ってもらえたら、僕は幸せです。「生きづらい時代」って、いつでもどこかで誰かが必ず言いますけれど、人生というのは苦しみがつきまとうのが前提という考え方で僕は生きているので、その中でもともと出来ていたことが出来なくなったりとか、いつまでたっても人並みに出来なかったりとか、傷付いたり欠けたりした部分をみんな少しずつリハビリして、一人一人が少しでも生きる価値を見出せる未来を手繰り寄せてくれたらなと、そういう願いを込めて作ったアルバムなので。心のリハビリを必要としている人に、届けばいいなと思います。みんなでリハビリしていきましょうね。
こにー:神部さんの説法タイムでした(笑)。
ありがとうございました!
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