スペシャルインタビュー ハンサムケンヤ × ポテト社長 × 阪本大雅 2/5|スタジオラグ

スペシャルインタビュー
ハンサムケンヤ | スタジオラグ

壁中ゴールドディスクでした(笑)

MIXエンジニアさんのお話が少し出ましたので、少し話は変わりますが、今回のアルバムの中には、あの“GOH HOTODA”さん(マドンナやジャネットジャクソン、宇多田ヒカル、坂本龍一等を手掛け、4人目のYMOとも呼ばれている)がMIXされた曲が入っているとお聞きしていますが。そこらへんの経緯をお聞かせ願えますか。
ポテト:僕はMIXという事に関して全く無知だったんですけど、MIXエンジニアで検索したら一番上に出て来て、調べてみたらとても凄い人だなーと思ったので、メールを送ってみたんです。
“GOH HOTODA”さんと言えば、大御所中の大御所じゃないですか?!直接やり取りしたんですか?!
ポテト:ハンサムケンヤのミュージックビデオをYouTubeに上げてるんですけど、HOTODAさんがそれを見てくださって、「普段、僕は面白いと思ったものしかやらないんだけど、これは面白いと思ったので、やります。」と。僕は、「気に入ってもらえて良かったなー。」というくらいだったんですけど、阪本さんに「そういえばMIX、GOH HOTODAさんという方がやってくださることになったんですけど」って言ったら「え゛え゛ーー!!」っていう風になって(笑)
阪本君はそれを聞いた時はどんな風に思いました?
阪本:いや、“ポテちゃん…この人、何考えてるんやろ”って思いましたね。
一同:(笑)
阪本:前々から、関東も関西も含めて良い人にやってもらいたいって言ってたのは聞いてたんで。まぁまぁ、割と頼み易い範囲の人達ってのは想像してたんですけど、まさかね…
実際、熱海の方まで行ってお会いした感想は?
ハンサム・ポテト:壁中ゴールドディスクでした(笑)
(笑)
ハンサム:実際に熱海に行く前に、HOTODAさんってどんな人なんだろうって調べてみたんです。グラミー賞を受賞している作品を手掛けていたり、宇多田ヒカルのヒットソングはほとんどHOTODAさんのMIXだったり。この人は本当に有名な人なんだなということで、行く直前になってやっと緊張してきましたね。で、実際行ってみると、自宅だったんです。家の地下にスタジオがあって、「ああ、これから凄い仕事が始まるんだな」っていうところで、僕はスゴイ睡魔に襲われてしまって…
一同:(爆笑)
阪本:ガックンガックンしてたね。
ハンサムケンヤ | スタジオラグ
え、寝てしまったんですか?
ハンサム:いや、でも、要所要所は聴いてたんですよ!
阪本:いや、眠たくなるんですよ。後ろで見てるだけって。ひとつ何かこういう事をしようってなったら、それを表現するために1時間くらい掛かったりするんで。その1時間ひたすらやってるのをただじっと待つだけってね。
ポテト:スネア1発の音をエンドレス・リピートして、それがもう15分とか続いてましたからね。
ハンサム:「パン、パン、パン…」って15分も続かれたら、「スー…」っと、催眠術のように…
なるほどなるほど(笑)合計何時間くらいやったんですか?
ポテト:3曲やるのに丸2日ですね。事前にもある程度までMIXして頂いてたんですけど、細かいとこの調整に丸2日掛かりました。
事前に曲を送っておいて、実際にお会いした時に微調整、それが2日間と。

“MIX作業は曲をここまで変えることができるんだ”って、凄い贅沢な環境で教えてもらった

事前MIXを聴かれた時の感想は?
ハンサム:言う事何もないなって感じでした。音が凄く広がっていて、曲の盛り上がり方が全然変わっていて、自分の曲なのに引きこまれてしまいました。
阪本:俺も言う事何もなくって…(笑)
え、そこはどうやってその2日間の調整まで持ってったんですか?
ハンサム:阪本さんが「せっかく熱海まで来たんだから何か言わずには帰れない」と、色々質問をし始めて、「もうちょっとこうしたらどうなりますかね?」という注文をしていきました。結果としては、さらに良いものになりましたね。
阪本:なんか言えることないかなって思って…なんだっけ、「Aメロをもっとドロドロにしよう」って言ったんでしたっけ?
ハンサム:そうですね、ただでさえちょっと怪しいような雰囲気の漂うAメロなんですけど、そこをさらに…
阪本:せっかくだし、なかなかコミュニケーション取れる人じゃないから、もう言いたいこと言っといちゃおうってね(笑)
ハンサム:でも、それがどんどん良い方向になっていって。
ポテト:「ここをもうちょっとこうした方が良いでしょうか?」って聞くと、そのことについて本当に真剣に考えてくださるんです。それで、そうしようかってなると、そこから数時間はHOTODAさんは自分の世界に入り込んでいましたね。
ハンサム:僕はあまりレコーディング慣れしてないんで、“MIX作業は曲をここまで変えることができるんだ”って、凄い贅沢な環境で教えてもらったって気がしますね。
阪本:いやぁ、化けたねぇ、あの曲たちは…
そこはエンジニア観点からどのように変わったか聞きたいのですが。
阪本:何て言うんですかね、単純に何がどうっていうか、より曲の良い所が見え易くなった。やっぱりちゃんと聴いてはるんやなって。どうなったらカッコよく聴こえるか、どういうふうに聴こえたら気持ち良いか分かってないとできないMIXの仕方ですよね。
技術的な面でいうと?
阪本:技術的なところは、“基本的にどんな機材でやろうがあの人はあの音にできるんだろうな”ってとこですかね。結局は“耳”ですね。結構、色々と教えてもらったんですけど…どのプラグインが良いであったりとか、こういうふうな使い方があるってこととか。まぁ、そのプラグインが無くてもあの人やったら、あれに近いものが表現できるんやろうなって思いましたね。あと…時間をすごく掛けてましたね。トライ&エラーする時間があるって事は良いことやなって思いました。普段ラグでやってる1時間とか2時間とかのMIXって、「これやって下さい」「やりました」「ダメだった」「じゃ、もう無しで。」ぐらいの時間しか取れないわけですよ。5分10分くらいでパッと試して、できなかったら終わり。「ここを凝りたいな」ってなっても、その時間が「もったいない」ってなってしまうんですよね。
そうですよね、ある意味、時間との勝負でからねぇ。
阪本:だから、そこに時間を投資できるって言うのはすごい贅沢だなと思った部分でもあり、逆にそこまで拘れるだけのネタを持っているっていうのはすごいなぁと。例えばこういうふうにして欲しいってなった時に、“引き出し”をいっぱい持っていて、その中から、順番に試していった結果、「これが一番良いよね」と、するまでの時間と集中力があるというのは凄い事で。また、そういう環境に自分を置けているっていうのが、一番凄いことかなって思う。…単純に良い音作れたり、バランス取れたり、良い耳を持っているっていうのもあるんですけど、あの人があれだけの仕事ができるのは多分、そういう環境に自分を置いているからこそじゃないかなと思います。
ポテト:HOTODAさんに、「正直僕はMIXって言うのは全然分からないんですけど、“良いMIX”って、“良いMIXエンジニア”って何ですか?」って訊いてみたんですよ。そしたら、阪本さんの言う通り「“引き出しが多い”っていうのが一番だね。何かを注文された時に、たぶん普通のエンジニアだったら5個くらい選択肢があって、その中でこれが一番合うかなっていうのをやって終わりなんだけど、僕の場合は引き出しが1000個も2000個もあるから、その中から選べる」って。
阪本:あのネタの量は凄いね。やろうと思ってもできるもんじゃない…実際音が出るまではすごく時間が掛かるんですけど、作業の早さ云々じゃなくて、結果的に良い音が出てるか出てないかなんで。とにかく「遥か彼方雲の上の人なんだな」って思いましたね。
それで、ひとつのスネアの音を決めるのでも15分と…
阪本:『秋雨前線』のAメロ入りのスネア1発決めるのに30分掛けてたよね。そういうところに拘る・拘れるっていうのがね…
ハンサム:阪本さんがHOTODAさんに色々と教えてもらっている間、僕はよく分からなかったので後ろで睡魔と闘っていました(笑)
阪本:(笑)