スペシャルインタビュー 岡本博文 4/5|スタジオラグ

スペシャルインタビュー
岡本博文 | スタジオラグ

『使い道の無いギタリスト』になろうと思ってる

・・・僕はねサンタナとか昔から好きでね、サンタナってヴォーカルも入っているけど、ものすごいギターの印象が強いでしょ。だから、今回のアルバムなんかでも、歌が終わってからちょこっとだけ入るギターが光っていれば、僕のアルバムになるなぁとも思えたんです。
それこそ、先程のジェフ・ベックの下りに繋がりますね。
そうですね。だから、間奏がちょこっとしか無くても際立っていたら ― パっと聴いて「岡本博文」だっていうのが分かるっていうことが実現していれば、十分僕のアルバムだって成り立つと思っていたんです。・・・というのも、僕は前作の『Grand Blue』を作る前に、デビット・ベーカーっていうニューヨークのエンジニアさんと会っていてね、その人と話している時に「岡本、良いギタリストってものは三つくらい音を弾いたら、もう誰だか分かる。B.B.Kingでもサンタナでも、すぐ分かる。良いギタリストってそうだから。そうなりなさい。」って言われて。ああ、なるほどなって。だから、なんて言うのかな・・・『使い道の無いギタリスト』になろうと思ってるんだよね。汎用性が無いというか、いろんなものに使えるギタリストではなく・・・例えばジェフ・ベックとかがスタジオワークやろうと思ってもできないよね。(笑)
それは・・・使いにくいですねぇ!(笑)
そう、その『使いにくいギタリスト』なっていきたいかなぁ・・・。僕は、今まで使い道がありすぎた。(笑)僕は思うんだけど、多分、“アート”っていうのはね『使い道が無い』んだと思う。使い道があるものは“デザイン”なんだよね。
ほぅ・・・(感嘆の溜息)
・・・まぁ今の世の中ってのは、アートでも使い道を探す世の中だけどね・・・例えば、ムードある喫茶店で、ドヒャーっていうジャズがちぃさい音で流れてると、確かにお洒落なんだよね。だから、今の世の中っていろんな音楽を巧妙に消費できるんだけど・・・そんな中でも、誰だか分かる音を出したい。ちょっとずつ、そんなことを実現していけたらと思って。今回、そういうふうなことが出来始めたと感じて、僕としてはすごくスタートラインに立った気持ちがしてますね。
なるほどぉ・・・ところでスタートラインと言えば、この「Okamoto Island」という形態で活動を始められたのはいつ頃からなんですか?
前作を作る三年くらい前から、その母体となる活動をしてたんですけどね、うーんと、いつの間にやら・・・(笑)。そうですねぇ、「Okamoto Island」という形態が最終的にスッポリはまったのは、その『Grand Blue』を作ったからだと思うんですけどね。これもさっきの話に戻るんですが、デビット・ベーカーと話してた時に、「岡本、有名なミュージシャンとセッションすることばかり考えるな。そうじゃなくて、お前を尊敬して、お前も尊敬できる人間と、イントロの四小節を朝から晩まで毎日繰り返せ。そうすればバンドができる」って言われたの。だから、「自分の身近なメンバーと自分のオリジナルをやるっていうことを始めなきゃいけない」と思ってね。で、それをやっているうちに徐々にメンバーも変わっていって、セッションであったものが固定バンドへ、とね・・・その中で今のマーティー・ブレイシー、佐伯さんという人が決まっていった、という感じですね。
なるほど、やはりそのデビット・ベーカーさんという存在が大きな鍵になっていたんですね。
そうですねぇ、色んな意味で。彼はプロデューサーと長いお友達だったわけでね。それで紹介していただいたんですけど。 ― この人はすごい人で、マイルス・デイヴィスとか、ジョン・スコフィールドとか、多分、ドリカムもやったかな?もう亡くなったんだけど、歴史的なエンジニアなの。 ― その彼に会わせてくれたプロデューサーの「眼力」っていうのは、正直なところ、ものすごい敬意を評していますね。
なんと言うか、良縁に巡り会えたということですね・・・そこから辿り着いたものとして、ご自身でも仰ってますが、本当に今回「ああ、岡本さんらしい曲だな」と感じられるものが出来たわけで・・・
ありがとうございます。そういう、なんて言うのかな、好き嫌いじゃなく「匂い」が出てなければ、好き嫌いすら始まらないと思ってるんですよね。多分、僕のアルバムを聴いて好きな人も嫌いな人もいると思うんだけども、でも、「匂い」がしなければ何も始まらない。そうじゃなきゃ、ただの関係の無い音だからね。
またそうなると、逆に嫌いな人もいるということも、アーティストとして重要なことなのでしょうか?
そうそうそう!嫌いだって言われることは、好きだっていう人がいることの裏返しだからね!

“ただグルーヴしていれば僕らの音世界を表現できる”というレベルを超えちゃった

ちなみ今回、ベースがイスラエルさんから荒玉さんへと変わっていますが、差し支えなければその経緯や、サウンドの変化等お聞きしたいのですが。
そうですね・・・今まで外国人二人がいたおかげで、リズムセクションに“通常無いような匂いが出ていた”んですね。でも僕らの音楽が、“ただグルーヴしていれば僕らの音世界を表現できる”というレベルを超えちゃったとも思えて。僕は今回、喜怒哀楽があるっていうか、もうちょっと繊細なバンドにしたかったんですよ。そこへ、イスラエルがバンドをやめるというタイミングに出くわして、このピンチを逆にチャンスに変えなければと思ったんです。
そこで、荒玉さんの登場というわけですね!
何年か前から荒玉君とは付き合いがあってね、僕はタンゴバンドもやってまして、そこに彼もアコースティックベースで参加してたんですけど、一回だけどうしてもステージに立つスペースがないってんで、しょうがなくエレキベースでやってもらったら、すごく上手かったの。その日は二時間くらい弾いておしまいだったけど、その時の事がすっごく頭に残っててね・・・それで「エレベを弾いて欲しいんだけど。」って頼んだら「どうなっても知りませんよ。」って言われたけど、でも、誰よりも素晴しかったと思いますね。誰よりも、僕のコンセプトにぴったりだと思いました。
結果的に大成功だったんですね。
はい!最初は全部エレベで弾いてもらうつもりだったんだけど、「ウッドベースいっぺん弾いてもらえます?」ってお願いもできて、そしたら、やっぱりウッドベースも良いですよね、みたいな感じにもなったりして(笑)今回のアルバムではエレクトリックだけでなくアコースティックも含めて作ろうと思っていたんで、もう単純にサウンドカラーが広がってね。
ははぁ、そんなことがあったんですね(笑)。そうですね、やはり聴いていてギターサウンドも、アコースティックやガットがメインになっていて、エレクトリックでもあまり歪んでいないトーンがメインになってますから・・・
そうですね。だからエレクトリックのギターは、ほぼヴォーカルの立ち位置で考えましたね。アコースティックの方には、さっきも話であった、“水面がキラキラ”とか、“風が吹いたり”とか、そういうふうなノートがあると僕の中ではあったので、両方のアイテムを使って、一つの世界を作ったっていう、考えがありますね。
なるほどなるほどですねー。