スペシャルインタビュー 岡本博文 3/5|スタジオラグ

スペシャルインタビュー
岡本博文 | スタジオラグ

メロディを弾いた時点で、言いたい事をほぼ言い終わっているギタリスト

やっぱり僕の中で、インストを聴かせたいという気持ちがとてもあってね。実際に今、ロックの、本当にもうクラシックロックって言われてる音楽の歌詞の部分をギターに置き直してギターインストでやってみたりもしてるんですよ。
その心は?
歌の無い「歌謡曲」になるんだったら、ロックじゃない ― 例えば洋楽聴いていて、歌の歌詞の意味が分かんなければインスト聴いてるのと同じようなものじゃない?じゃあ、ヴォイスの部分をギターに直してもちゃんとロックになっているんだったら、と思ってね。
なるほど、言われてみればそうですね!歌詞なんか、全く分かんなくても聴いていて「ああ、これはロックだ」って思えますし、それ以上に色んな感情が伝わってきますもんね。
そうそう。でね、例えばジェフ・ベックとかがしている歌の無い活動、あれはすごく面白いと思う。彼はジャズギタリストじゃなくて、やっぱりどこまで行ってもロックギタリストだと思えるんです。彼のアルバムなんか聴いてみると分かるんだけど、「テーマ」を弾き終わったらほとんど言いたい事を言い終わってるのね。「ソロ」の部分を抜きにして。だから「ジェフ・ベックのアルバムいいよな」っていったらみんな「テーマ」を口ずさむ人が多いと思う。『スキャッター・ブレイン』とかね。どういうソロやったって、案外みんな覚えていないのかも。
・・・確かにそうかもしれないですね、言われてみれば(笑)
それが彼がロックギタリストたる所以だと思うね。というのも、テーマを弾き終わってから「よし、これから本番だ」と思って弾きまくっちゃうと、言う事が僕は多かった。「テーマ」が終わる事をとっても心待ちにしててね、「アドリブ来ないかなぁ」って思ってるの。あれ、いけないなぁと思ってるんだ、自分自身ね。ジャズとか往々にしてアドリブがある音楽の初心者は誰でもそうなんですけど。(笑)・・・でね、同じ事を考えたの。
と、言いますと?
僕はここ数年来、すごく良い歌手の人達と一緒に音楽をしているんだけど、彼女達はアドリブが無いんです。・・・いや、歌手なら誰でもそうで当たり前だと思うんだけど・・・歌手ってのは、歌詞が決まってて歌い終わると「次、どうぞ」みたいなところがあったり、ちょっと間奏挟んで歌っておしまいってなるんですよ。僕はね、「ああ、そうか、この人達って、上手いかどうかをアドリブもせずに伝えなきゃいけないんだ」と思ったんです。じゃあ、ギタリストもメロディを弾いた時点で、言いたい事をほぼ言い終わっているギタリストっていうのになれたらいいなって思えたたんですね。
ジャズギタリストでありながら、ソロやアドリブに頼らないということですね。
また僕は作曲家でもあるから、ジャズうんぬんと言う前に曲をちゃんと聴かさなきゃダメだなって思えて・・・その点で結構悩みましたよ。シンプルなメロディをどうやって弾くのかっていうのを、すごく研究しましたね。簡単な八小節がいつまでも弾けない、と思った事もあったし。やっぱりバンドでやるとなると、もういっぺんやり直さなきゃいけなくなるんだけど、実験として一人でね。ほんとにピックがこすれる音まで考えて・・・そう、「匂い」がなければ始まらないと思ったんでね。
本当に細かな点から追求されたんですね・・・

もう・・・拝みましたね

ところで、岡本さんといえばインストゥルメンタルで、今もそれを中心にお話しましたが、今作には歌ものも入っていますね。その理由というのは、やはり、先程の言葉の持つパワーから来ているのでしょうか?
そう!やっぱり声が持っているパワーってすごいんで、アルバムに立体感をつけるという意味で、ヴォイスは最初から入れたいなと思ってたんですよね。いろんなメッセージ・・・歌詞があれば先ほども言ったようにメッセージを伝え易くなるから。アルバムが3D化出来るな、と。
伝えたい事が浮き彫りになるというか、分かり易くなるというわけですね。
そうですね、「Okamoto Island」というユニット、そのアンサンブルがどういう「匂い」になるのかは、長年のツアーで薄々分かっていたので・・・返ってヴォーカルが入る事によって「Okamoto Island」の特徴が浮き彫りになると思ったんですよ。
ヴォーカルを「桑名晴子」さんにした理由とは?
そうですね・・・「Okamoto Island」という匂いの中で、ある種のムードというものを、付け加えてくれる程の実力がある人、というのが晴子さんだったと思う・・・もうね、結局二ヶ月くらい誰にするか決まらなかったの。プロデューサーの方と最初からヴォーカル入れようねって話はしてたんだけど、僕の中ではなかなか決まらなくてね。「やっぱり帯に短し襷に長しで、なかなかなんですけど・・・」みたいな話をしたら晴子さんを勧められてね。僕は晴子さんを知っていたけど、R&Bのシンガーだと思ってたから、もう思ってたイメージと全然違っったんです180度。― 澄んだ声の人が澄んだ感じで ― とか思ってたんだけど、「全然澄んでないやん」みたいな。(笑)
(笑)
僕は歌手っていうのは、音程が良いとか声が通るとかいう以上に、神通力が必要だと思っててね。なんか念力みたいなものが出てるか出てないかっていう、それが一番重要だと思っていたから・・・たしかに晴子さんもそういうものが出てる人だなあと感じられて。だからプロデューサーのセンスに掛けて「分かりました、それでいきましょう」って即決したの。
結果としては・・・?
もう・・・拝みましたね!
(笑)
いやぁ、すごい良いでしょ?なんか“たおやか”というか、自然でしょ?
そうですね、アルバムの流れとして、違和感なくスっと入り込めますし。
僕もね、録音して思ったんだけど、すごく濃厚なムードがあって。また、ヴォーカルがポンと前に出てくるかと思ったんですけど、そうでもない。
ですよね、通常のインストのアルバムの中で歌ものが入ってたりすると、結構強調されてきますけど、そこまでの違和感というものは・・・
そうですよね、どういった力が働いたのか分からないけれども、すごく自然に収まって・・・思ったような歌詞の曲も選んだので、メッセージ性もよく出て、すごく僕としては「やったな」って思いましたね。・・・拝みましたよ・・・トラックダウン聴いて・・・もともとはヴォイスで参加する人を探してたんですよ。やっぱり、どんなに感情を入れてギターを弾いても、メロディーを太くするテクニックってのはアレンジ上、必要だと思えてね。その時に、ヴォイスと一緒にギターを弾くというのが、僕は一つのポイントだと思ったんですよ。それで、ヴォイスとギターのユニゾンをしたりしてたんですけども、最終的にギター無くしても大丈夫だったんで・・・これ、いいなって(笑)。
(笑)
それで、多少の方向転換を。だから歌詞が無いものでヴォーカルが入ったもの、ルルル~だけでやってるものもあるんですよ。
なるほど、いやいや、思いもよらない収穫というか、裏話で。(笑)
逆にどういう風に感じてた?
いや、岡本さんのアルバムなので、まずは曲を聴かない段階での予備知識として歌ものが入るとは知っていたんですけど、「あれっ?」とは思いましたね。岡本さんといえばインストだろうって。でも、すごく流れ的に自然で・・・どういう気持ちで入れたのかが気になるところでした。
ああ、なるほどねぇ。