スペシャルインタビュー 岡本博文 2/5|スタジオラグ

スペシャルインタビュー
岡本博文 | スタジオラグ

「一つの言葉」じゃない「一つの音」があって、その中に“ハッピー”と“憂い”とが、同時に聞こえてきたりする

そこで岡本さんのコンセプト、「海」と「音楽」とを結びつけているものをお聞きしたいのですが。
例えば僕はアコースティックギターを弾く時には、“肌触り”であったりとか、“風が吹いたり”とか、“砂地を直接歩いたりする時”とか・・・そういう感覚をすごく大事にするの。ただリズム良くアルペジオを弾いて、何かしらの雰囲気が出るというのはあんまり昔から思ってなくてね・・・例えば、ほんとにフォークギターみたいなのでさ、ジャンジャカジャンジャカカッティングをしたりする時に、僕はね“簀の子の上を裸足で歩いてる”ように感じてる。それとか、浜辺にいて“ああ、風が吹いてくる”みたいな。
演奏の中に、感触というか聴覚だけじゃない感覚が・・・
そう!そういうふうに付け足して演奏するってことがね、僕は思うんだけど、演奏にそれなりの「匂い」とか「風」を感じさせるようにするんじゃないかな。僕は昔からニール・ヤングとか好きでね・・・決して上手く無いカッティングなんだけど、ものすごくね、乾いた土埃の感じがするんです。すごく好きでね・・・そうかと思うと、ジョン・レノンがジャカジャカやると、なんかちょっと湿っててさ、なんて言うんだろう、ロンドンぽい石の匂いを感じたりするのかなぁ・・・みんな、何かしらのプラスαを付け足してたんだと思うんです。
そこで岡本さんは「海」を感じさせるんですね。いや、聴いてると本当に南国をイメージするような曲があって・・・
もちろん、リズムの縦の線を合わせなければとか、録音独特のテクニックも気にしますけど・・・長いことギターを弾いて来てるけれど、今となってはよく世間で言われてる“メトロノームを裏拍でとって鳴らしましょう”とかって、別にエネルギー使う事ではなくなってるんですね。それは練習には必要で、もちろん(ギタースクールの)生徒にはね、そうも言うけども。・・・自分ではもうそんなこと考えたく無い。・・・プラスαが無ければね・・・もしかしたら、もうそういうリズムとかに合ってなくても、「匂い」がすればいいのかもしれない、とも思ってるの、最近。だって昔の録音てさ、早くなったり遅くなったりしてるし、どこまでいっても人間てのは多少揺れるんだわ。
そうですよねぇ、人間ですから(笑)。
ほんと、普段鳴ってないものを急に録音の時に鳴らしてさ、「今日はこれに合わせてやりましょう」って言ったって、普段着じゃないとね。・・・まぁ、僕らもプロだからやるんだけど(笑)そっちの方が、バンドの中ではお互いにコンセンサスというものができるからね。
(笑)
多分、今回みたいなインタビューを見る人ってバンドマンの子が多いと思うんだけど、今の子達っていうのはたくさんデモテープを作ったりしてるし、「録音スタジオに行ったらクリック鳴らすんだ。だからクリックに合わせて演奏できなきゃダメなんだ」って、確かに言われてるかもしれない。で、それでも合わなかったら、ちゃんとエンジニアが前にしたり後ろにしたりしてくれることまで知ってるかもしれないよね。それで、家でもクリック練習とかしてると思う。・・・でも、やっぱりね、それをした後に何が残るかだよね。
録ったもの、出来上がったものに、プラスαが感じられるか感じられないかというところですね。
うん。キャリアが二十年・三十年ある人でも、一昨年くらいからバンド始めた子達でも、同じ録音の機材を使って同じような完成度になるようにするテクノロジーが今はあると思う。その中で、「何が違うんだ」と。そういうふうな事をすごく大事にしてる。また、僕は思うんだけど、今の世の中ってのはすごく説明が多くなってる。だから、歌詞が無い音楽っていうのは、とっても聴かれなくなったと思うんだよね。
確かにそうですね・・・
歌詞があるということは非常にパワフルだと思う。歌詞 ― 言葉って言うのは、時に使い方を間違えると人をすごく傷つけるからね・・・そのくらい力があると思う。だから、それを上手い事使って、文学というものを味方にして、音楽をするということは、基本的にパワフルな音楽ができるんだよね。だからそれが当たり前になって・・・逆に世の中の方が絶えず説明を求めるようになって・・・ちょっと悲しいな。
ふ~む・・・
例えば、「胸が張り裂けそう」なんて言葉を歌詞に入れちゃえば、「ああ、張り裂けそうなんだ」って思ってしまう。でもね、そういう言葉 ― 説明が無くたって、“風が吹いたり”、“光が輝いてきたり”、そういうことが出来るんじゃないかって長い事思ってるんだ。“愛”って言葉を使わなくても“愛”が感じられたり、“ロマン”を感じたりね。「一つの言葉」じゃない「一つの音」があって、その中に“ハッピー”と“憂い”とが、同時に聞こえてきたりする。そういうふうにできるのが、本当は音楽の一番の部分じゃないかな。
言葉にしなくても伝えられる、まさに先程のプラスαの部分で訴えられる力があるんですよね!
そういうふうな「パワー」というものを、今回はとっても伝えたかった。それで初めてね、そのことが自分の作品の中で、割と素直にできたんじゃないかと思ってる。
なるほど、いや本当に何かを感じられる作品だと僕も思います。

喜怒哀楽に訴えかけるアルバムにしたかった

アルバムタイトルが『You Are My Sunshine』となりましたが、どのような思いで決められたのでしょう?
今回のアルバムは、僕らは、人は一人で生きていけないな、と今頃の活動を通じて感じて来たので、前のアルバムから4年間応援していただいたファン、そして仲間たちへのメンバーからの贈り物という気持ちがあったんです。それで、これに決めました。
なるほど・・・非常にジャケット写真にもマッチしたタイトルですが、そこらへんにも何か関係があるのでしょうか?というのも、僕としては先程お話にあった「水上」のイメージといったことを受けて、水上で太陽の光を受けてる感じなのかなぁとも感じたのですが・・・
ああ、その話はね、今回のアルバムジャケットを「赤木正和」さんという、日本では有名な水中写真家の方に、色んな意味でコラボしてくれないかってお願いしたら快諾してくれたんですよ。それで彼に僕達の音を聴かせて、写真でめぼしいのが思い浮かんだら持って来て頂きたい、と頼んで、持って来てもらった写真が全然水中じゃ無かった、というわけ。「おかもっちゃん、これ、ダメだ。水中の写真が思い浮かばない。どう考えてもこれ、水上でしょ」ってね。(笑)でもそれを見せてもらったら、すごく良かったんです。「なるほどね」って思った。だから、今回のアルバムジャケットというのはもちろん僕の意見も入っているんだけども、彼の提案であったり、感性とのコラボになってるんですよ。
なるほどなるほど。そこで「水上」の話が出て来たんですね。でも、本当に奇麗な写真で、曲に合うというか・・・ジャケットからくるインスピレーションって内容を聴いてみると結構違ってたりすることもあるんですけど、この作品は蓋を開けてみて納得というか、すごくぴったりだなって感じました。さすがのコラボ作品ですね。
ありがとうございます。そういう感じなので、「海」っていうのが一つのテーマになっているんですけど、その奥にあるのは、風を吹かせたり、喜怒哀楽に訴えかけるアルバムにしたかったという思いですよね。だから、なんていうのかな、テクニックを使って、キメもいっぱいあって、派手で、ギター構造がどうのこうのというものじゃなく、もっと一般的なね・・・もちろん、インストの音楽をあんまり聴いた事が無い人達へのメッセージでもあるんです。
そういったものを受け取ってもらえれば、ですね。