スペシャルインタビュー ゆーきゃん 3/5|スタジオラグ

スペシャルインタビュー
ゆーきゃん | スタジオラグ

自分以外に自分を聴いてくれる人が存在するってことがすごいことなんじゃないかなって思うんですよ。

そのような思いがあった中でも自身の活動や、イベントであったり企画を打ち出し続けて来れた理由は何だったんでしょう?
自分が何故ライブイベントを打つのかというと、元々根本的な欲求はやっぱり名を売りたいからということだと思うんですね。あるいはたくさんの人に聴いてもらうために。さらにいうと自分の事を好きになってくれるかもしれない人に届けるために、それを基準にすると、全然関係のない無作為に選ばれたバンドとやっても何も残らないと思うんです。良いライブをしたっていうことは置いといて、次に繋がらないというか…それで、イベントを企画する時には、“AというバンドとBというバンドと僕が出て、そのバンドの間に化学反応が起きる。そしてそのバンドを見に来た人達が「あ、こんな面白い音楽もあったんだ」”という風に、いろんな事知っていくというのがイベントの醍醐味であって、そうやって自分を知ってもらうための、あるいは自分と誰かを繋げるための場を作りたい、そう思ってずっと続けてきたんです。
ライブイベントの“在り方”ですね。
だけど長くやってると、自分の事とかどうでもよくなってくるんですよ。なんだろう…名誉欲とかが無くなって、誰々とやりたいとかも、もうあんまり無いんですよね。何故なら…簡単に言うと、死ぬ気になれば、大体のことが叶ってしまうから。『斉藤和義』さんをボロフェスタにお呼びした時に、『斉藤和義』と同じステージに立ってるなと思ったんですけど…呼べるんです(笑)たとえば今売り出し中の若手バンドのマネージャーだったら、このバンドとやればお客さんも増える、知名度も上がる、そうやって次のステップに繋げようみたいなこと考えるんですけど、そればっかりだと疲れるんですよね。上手く行かない事ってあるわけじゃないですか。だんだん疲れていくわけですよ(笑)そして本当にやりたいことが分からなくなってくる。
上手く行かないのが世の常とも言いますしね(笑)
ボロフェスタの2006年に僕はバンドで出たんですね、『CHAINS』のリズム隊の二人や『サカモト教授』がピアノ弾いてくれたりして。同じ日に『くるり』の岸田繁さんに出演して頂いたんですが、ライブの後、岸田君がメチャメチャ誉めてくれたんですよ。「よかったよ」って。それまでは「自分、もうちょっとやな」って感じで言われてたんですけど、その時は本当に誉めてくれはって…それをきっかけにアルバムを1枚、『くるり』のレーベル『NOISE McCARTNEY RECORDS』から出させてもらったんですね。
2nd アルバムの「sang」ですね。
今まで、自分の納得がいくライブをするということが、みんなに音楽を届けるということに繋がる、そのためにはそれしかないと思っていて、もっとちゃんと音楽を作らなきゃ、良い曲を書いて良い詩を書いて良いライブをするようにしなアカン、とばっかり思ってたんですね。それが突然、京都と言えばこの人というような ― 『岸田繁』という人に誉められて、アルバム出そうという話になって、すごく舞い上がったんです。「なんか行けるんちゃうか。運開けて来たんとちゃうか」って思ったんですけど(笑)…でも、期待が大きいと、その分だけ届かなかった時に嫌な気分になる。自己顕示欲だけが膨らんでも、虚しいだけなんです。それを誰のせいにしたら良いか分からないというか、結局自分のせいだとは思うんですけど、なんというか、そういうのが嫌になって。自分のために何かをするというのは程々にしておかんとなって思ったんです。だって音楽やるっていうこと自体が、自分のためにやってるわけじゃないですか。まずはその、やりたいことをやらせてもらえてるという事に満足すべきで、仮にお客さんが1人であろうと2人であろうと10人であろうと100人であろうと、自分以外に自分を聴いてくれる人が存在するってことがすごいことなんじゃないかなって思うんですよ。なのでイベントをやる時は ― ボロフェスタ以外では ― 最近は誰かのレコ発とか、大義名分のあることしかやらないです。誰かのレコ発で「おめでとう」という想いとか、リリースをしてツアーを組んで来るバンドを京都のオーディエンスに紹介をするとか、出会って欲しいバンドとぶつけるとか、そういういうことしかあんまり考えてないですし、そっちの方が面白いんですよね。

音楽というものは演奏する時に多分、人を掴んでいくんじゃなくて“人を乗っけて運んでいく”っていうもの

自分のためでは無く、誰かのために企画を立ち上げて行うというわけで。
そうですね。自分のステップアップのためじゃなくて、何かと何かを繋げるためにという想いが強くなって。今の僕のボロフェスタへのモチベーションはそれですね。異なる音楽が同じ会場・同じ時間帯で鳴って、異なるお客さんが色んな楽しみ方を同じ時間帯・同じ場所でする。そこで起きる化学反応がすごく面白いんです。その場にいた人が少しでも日常にその感動や発見を持って帰ってくれたら、と思ってやってます。自分の音楽はと言えば、その中でなんとなく楽しみにしてくれてる人がちょっとでもいたら、それでいいなと思っていますね。僕が最近、一番好きなシチュエーションのライブは、結婚パーティーで歌うっていう。
結婚パーティーですか(笑)「おめでとう」という意味では、レコ発となんか同じ感じですね。
友達のために歌うとか、やっぱり一番好きなんです。
なるほど。また、そういうものは聴いた事が無いジャンルの音楽でも、気持ちの面で聴き易いのかもしれませんね。それで新しい発見があったりして、考えてみるとシチュエーション的には抜群じゃないですか!
そうですね。岸田君が僕に言ってくれた事なんですけど、ポップスっていうものはオーディエンスに夢を見させるものじゃないといけない、リスナーを違った世界に連れて行く事がポップスを作るミュージシャンの努めだと。それで僕も思ったんですね。音楽というものは演奏する時に多分、人を掴んでいくんじゃなくて“人を乗っけて運んでいく”っていうものだと。歌を作り、歌う人の仕事っていうのはそういうもので、さらに、運んでゆくその先がずっと遠い、みんなの理想郷のようなところであるのが、ポップススターなんだろうなあと。
なるほどなるほど。
バンドのライブなんて、下心の塊じゃないですか。言うならば、対バンのお客さんもいるからその人達に聴いてもらって、好きになってもらわなあかんし、音源買ってもらわなあかんし、次のライブに来てもらわなあかんというふうに。…それは正しい事ではあるけれど、でも、邪な心でもある。本当のポップスターになると、もうそんなこと考えなくてもいいんですよ。誰とフェス出たって誰と対バンしたって ー みんな『くるり』のこと好きなんやから考えなくても自然とそうなりますよね。だから岸田君が言ってることは素直に理解できて、みんなそうあるべきだってすごく思えるんですけど、それを日々のライブでやるのはなかなか難しい。そういう意味で、けしてポップスターではない僕らが“乗っけて運ぶ”という作業を一番ピュアにできるのは結婚式のライブだと思うんですよね。だってもう、「おめでとう」って伝えるだけじゃないですか。それだけでその場が幸せになるっていう、あれはね。どうやったら普段のライブに結婚式の気持ちを持ち込めるかっていうのをいつも考えてますね。
結婚式はまた特殊な場ですからね…いや、難しい。僕もライブとかやってた時は、はっきり言って邪な気持ちしかなかったですからね(笑)
そうですよね、企画としては難しいですけど。レコ発が好きなのはそこがあるかなという気がしますね、みんながその場を作るために集まってくるじゃないですか。特に出演者はまさにその人の事が好きだったら、その人に「おめでとう」というために出てくれるわけで、その気持ちに会場が当てられてハッピーな感じになるのは楽しいですね。
バースデーライブとかもそうなるんじゃないですか?
そうかもしれないですねぇ。…でも、バースデーは祝われる人が多分、みんなに愛されてないと難しいかも(笑)
あ、そうですね。。そういう人がタイミングよく誕生日ってのもなかなか無いですもんね(笑)
実際、僕はいっぱいイベントやってきてるんですけど、何故イベントやるかっていう自分の中の意味付けはどんどん変わってきてますね。