スペシャルインタビュー ギタリスト 岡本 博文 3/4|スタジオラグ

スペシャルインタビュー
岡本博文 | スタジオラグ
生徒さんが音楽を自分で創造していくのに、色々応用できることをまずはしっかり身に付けてもらうというイメージですね。
ギターっていうのは、我流で遊ぶということも、すごく大事なんですよ。僕は高校の時には上達と言うものを考えなかったので、例えばEというコードを教えてもらった。その後にAを弾く、Dを弾くではなく、Eを押さえたままのフォームでそのままずらしてみた。天才ちゃうかと思った(笑)。何でも教えてもらったコードは絶対ずらしてみること、それが僕にはすごく刺激的だった。Aのコードを弾いてみた、指を一つ外してみた。こっちの方が絶対かっこいいわ。それらのコードを繋げたら曲が出来て、結構天才だと思ってた。だから一般的な上達はしなかったけど。それはそれで楽しかったですね。
理論的なことを知る前に、曲が出来たんですね。
理論をもとにしてこれをこれを、ってやるのが決して一番いい方法ではないような気がする。そうやって遊びの中で発見したことがすごく多いですね。そしてプロになってから、当時思いついたコードを弾いてたりする。本当に高校の時に逆戻りだよね。仕組みがあって、ギター教室があって、ギター教室で教えてもらうことを、ちょっと馬鹿になって遊んでみるみたいなこともいいんじゃないかと。教えてもらった通りにやったら、何々という音楽ができるってもんじゃないと思う。
遊びは大事なんですね。
ギター教室だから基礎練習から始めるけれども、そこから先っていうのは創作力みたいなものじゃない?Aっていうコードはここでしか弾かないけど、もっと他の弾き方あるんじゃないだろうか、とかいう風に自分で考えてみることが大事で。結果的に僕のところに来ればこうでも弾けるああでも弾けるよ、ってことは教えてあげることは出来るんだけど、それも僕が遊びの中で開発してストックしてきたことなんで、良い子で習いに来てくれるのもいいんだけども、陰で変なことやってみるのもいいんじゃないかな。僕の生徒ってジャンルが広いんだけど、僕はそういう意味では間口は広いかな?さすがにメタルの少年が来たら、半年くらいは「これは『ド』だよ、『レ』だよ」って言うんだけども、「まあ、ぼちぼち速く弾ける人のところ行ったら?」と(笑)。それでも、アイデアみたいなのを知りたいからって、普段はメタルやってるのに僕のところに来てる人とかって結構いるんですよね。
バンドシーンの人達はほとんどの方が譜面の読み書きができない、音楽言語を知らなくて、いざアレンジの発注やレコーディングの際に困ってしまうことも多いと思いますが、その辺りのことを学ぶこともできるんですね?
もちろん。ギターっていうのは、速く弾くことよりも、色んな響きがするっていうことを追求した方が音楽的には熟成すると思うんですよね。たくさんコードを知るっていうのはすごく大事。ギターっていうのは4つの音でコードを弾くのが基本で、4本で色んなコードを知ってると、ホーンアレンジもストリングスのアレンジも実はできる。バリトンサックス、テナーサックス、アルト、アルト。トランペット2本とテナートロンボーン、ベーストロンボーン。第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ビオラ、チェロ。という風に割り当てていくと、たくさんコードを知っているとオーケストラのアレンジまでできる。ただ、本格的なオーケストレーションの勉強が不要という訳ではないけど。
ギターでですか?
たくさんのコードを勉強しておくとね。僕は人にアレンジを習ったことはないけれども、色々CDなんか聴いて、こういう響きにしたいなって、ギターで全部アレンジする。デモテープも作ってるけれども、ホーンアレンジとか出来ますよ。
ギタリストがアレンジもこなすというのはあまり聞かないようにも思いますが。
それは狭い世界の話だからじゃない?僕らの時代というのは、実はすごくいい時代だったかも知れなくて。というのが、僕が高校の頃というのはギタリストっていうとちょうどQUEENとかAerosmithとかがデビューした頃。「うわぁ、すごいバンドがデビューしてきた」って思ったら、次にラリー・カールトンとかリー・リトナーとかが出て来たわけ。それまでっていうとジャズとか難しくて、理解できずに「うーん??」ってなってたけど、「おしゃれじゃない?」と。当時腕に覚えのあるやつは、皆ラリー・カールトン弾いたりリー・リトナー弾いたり、一番テクニカルだったんだよね。そしたら1年くらいしたらPOLICEが出て来て、テクニック使わない訳。それがかっこよくて、「やっぱりロックかっこいいじゃん!」ってなって。あとVAN HALENも同じ頃に出て来て、速弾きっていうと一番速かったのがラリー・カールトンだったから、皆フュージョンやってたんですね。1年くらいたったら、VAN HALENが出て来てもっと速い訳。そしたら皆「なんだ、ロックでいいじゃん!」ってなって。それまでは段階として、ジミー・ペイジ弾いて、リッチー・ブラックモアを弾いて、速いとか思ってたのが、その倍くらい速いと思ってたのがラリー・カールトン、その3倍くらい速いのがVAN HALENだった。いっぺん髪切ったやつがまた伸ばし始めて。そこらへんで、どの宗派に転ぶかと言うのが、皆すごく瀬戸際だったわけ。
ギタリスト的には熱い時代ですね。
僕の場合はオルタナティブかいわゆるジャズの方が、自分の未来があると思った。B'zの松本さんとか布袋さんとかはあんまり変わらない世代で、僕らの世代って両方とも経験してるから、音楽学校とか行かないと音楽できないと思った時期もあるし、皆ジャズのコード知ってたりしても好きなコードでやってるっていうベテランが多いんじゃないかな?あと、長い間音楽をやってると、僕は、スリーコードだけじゃ退屈になったんですよ。ロックの人でも、人前じゃやらないけど、裏ではガットギター買ってボサノヴァやってみたりね。そういう余芸みたいなものを親しむ人も本当は多いんじゃないかな。そうしないと、ギタリストが「バンドでいくんだ!」って言っても、バンドって寿命があるじゃないですか。30近くなってつぶしもきかない頃にバンド解散、ヴォーカルだけデビューしたりなんかすると、音楽キャリア続けられないですよね。その時にってなると、その人にしか出せないサウンドを出せるっていうのがすごく大事になるんじゃないかな。
「その人にしか出せないサウンド」、憧れます。
僕は「プロ」と「アーティスト」というのは方向の違うもんだと思う。アーティストは何かと言うと、世の中に似たものがないような音を作ることだと思う。美しければいいのね、とっても。ミロとかピカソだとか、その人だってパッと見て分るじゃない。ジミー・ペイジとか、POLICEとかU2とか、VAN HALENもそうだよね。聴いた瞬間にVAN HALENの新譜じゃないかなって思う。そういう風なのがアーティストなんだと思う。個性的な音を使って、使い道がないのね、アートっていうのは。ユースフルじゃない、美しいこと、ゴールは美しいことだと思う。プロになるっていうのはどこまでいっても商業だから、色んな人に呼ばれるような「これはやっとかなきゃいけない」っていう視点になるじゃない。それは、そういう世界だと思う。そのために努力することも、プロになりたい人には必要なのかも知れない。でも音楽は感動があってでしょう。いっぺん白紙になって考えてみたら、素直な心で考えてみたら、音楽は感動が一番じゃない。だから、そういう風なベクトルだと思う。僕の生徒でプロになった人もいっぱいいるけど、僕はプロを育てるためじゃないんですね。いい音楽をするやつ、いい音楽を楽しめるやつ、仲間を増やしたい訳で、京都が日本のニューオリンズやニューヨークみたいになればいいと思ってる。いい音楽をやりたかったら京都に来いっていう風な状況を作りたいと思ってます。